2013年2月20日水曜日

肥満と乳癌

2013年2月19日
NIHの研究により代謝と乳癌の分子的関連性が確認される

NCIプレスリリース 2013年2月5日

米国国立衛生研究所の傘下にある米国国立癌研究所(NCI)の研究者とその同僚らの研究によると、糖尿病や肥満といった代謝不均衡状態に関与するタンパク質が、悪性の乳癌発症に関係する可能性があることが新たに判明した。代謝不均衡はしばしば炭水化物の摂取量が増加することによって引き起こされるが、C末端結合タンパク質(CtBP)と呼ばれる分子の過剰な活性化につながることがある。この過剰な活性化が結果として乳癌のリスクを高めることがある。この研究結果はNature Communications誌において2013年2月5日に発表された。

「食生活を変えたり健康的な食生活を維持したりすることは、CtBP活性を薬理学的に低下させる方法の発展と相まって、いつか癌と肥満の関連を断ち切れるかもしれない」と、NCI 遺伝学科転写制御課責任者のKevin Gardner医学博士は言う。

(キャプション)TNBC(トリプルネガティブ乳癌)におけるCtBP発現に、CtBP活性抑制分子を重ねたモデル

肥満と癌に強い関連性があることは主に集団をベースにした研究を通して知られている。だがこの関連性の裏にあるメカニズムは明らかにされていない。過去にGardner医学博士の研究室である研究が考案、実施されたが、この研究によると、細胞の代謝状態が高く、体内で多量の炭水化物が処理されると、CtBPはそれを認識し、若年齢で発症する乳癌に関連する遺伝子(BRCA1)の発現を抑制することが分かった。

この初期の研究では、肥満と体重増加は、多量の炭水化物量の摂取に反応してBRCA1癌抑制遺伝子の発現レベルが低下することで乳癌の原因になる可能性を示した。これにより、なぜBRCA1の遺伝性突然変異を有する女性もまた体重増加により乳癌のリスクが増えるのか、部分的に説明がつく。

Gardner医学博士の新たな研究は過去の研究を進展させたものである。Gardner医学博士は、より臨床転帰が不良である乳癌患者において、CtBPによって抑制された遺伝子経路が減少しているかどうかを確認するため、過去の遺伝子発現研究を分析した。Gardner医学博士のチームは研究室で最初にヒトの乳癌細胞から始めた。CtBPと、発現を制御するためにCtBPが結合している遺伝子のつながりを評価した。研究者らはこのアプローチとゲノム配列決定を併せて行い、どのように、またどの位置で、CtBPが乳癌に関連する遺伝子に結合しているのかを確かめた。次に研究者らは、RNA干渉(遺伝子発現を抑制する過程)や細胞の炭水化物供給を減少させることにより、CtBP値の減少が観察された細胞内における遺伝子発現研究と、分析内容を統合させた。

研究者らは、CtBP値を低下させた状態ではDNAの修復機能が増し、細胞の安定性と増殖制御が発達することを発見した。より悪性の乳癌では、CtBPの標的である遺伝子経路もまた損傷していたことを確認した。さらに、腫瘍のCtBP値が高い患者では生存期間の短縮がみられた。また、過去にCtBPと結合することが示された小分子阻害剤は、多量に炭水化物を摂取した状況においても乳癌細胞でCtBPの遺伝子抑制効果をもとの状態に戻せることが明らかとなった。

Gardner医学博士は、「CtBPを標的にすることが、乳癌の治療法や、ひいてはその予防法を提供することに繋がることをわれわれの新しい研究は示した」そして、「研究は今後も肥満、CtBP、そして乳癌の関連性に注目し続けるべきである。その調査には、多領域の研究者チームや、より多くの集団ベースの研究が必要になってくるだろう」と述べている。

本研究はNCIの資金提供(プロジェクト番号1Z01BC010847-01)によるものである。

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参考文献: Gardner K, et al. Genome-wide profiles of CtBP link metabolism with genome stability and epithelial reprogramming in breast cancer. Nature Communications. Feb. 5, 2013. DOI: 10.1038/ncomms2438.
原文

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相葉沙枝 翻訳
原 文堅(乳癌/四国がんセンター)監修
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