2013年3月14日木曜日

乳がんの放射線治療で心臓疾患リスク高まる


2013年 3月 14日 13:12 JST

医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)が13日掲載した欧州での大規模研究結果によると、乳がんで放射線治療を受けた女性では心筋梗塞やその他の重大な冠状動脈事象のリスクが高まることが明らかになった。

 リスクは治療後5年目に高まりはじめ、少なくとも20年間続き、照射された放射線量が多ければ多いほど重大な心疾患に結びつく可能性が高くなるという。

 乳がん専門家らは、現在の放射線による治療は研究対象となった女性の多くが治療を受けた時に比べて的を絞った照射が可能になり、周囲の組織へのダメージが少なくなっていると指摘した。また、研究結果が示唆しているのは放射線治療を受ける患者を減らすべきだということではなく、心臓疾患要因のリスクをできるだけ注意深く管理すべきだということだ、と指摘した。

 同研究についての論説を執筆したデイナ・ファーバーがん研究所(ボストン)の心臓医ジャビッド・モスレヒ氏は「この問題を文脈の中で捉えることが大事だ。放射線やその他の治療の進歩によって多くの女性乳がん患者が生き延びられるようになったためにこの問題が大きくなってきたことが背景にある」と強調した。

 英オックスフォード大学などの研究者は、1958—2001年にスウェーデンとデンマークで乳がんの外部放射線治療を受けた、当時70歳未満の女性の記録を調査。重大な冠状動脈事象を発症した963人と同事象のなかった1205人を比較検討した。心臓に近い左側の乳房のがんの治療を受けた人は右側の乳房を治療した人に比べてリスクが高かった。

 研究者らはまた、患者がどの程度の放射線を浴びたかを推定し、心臓への照射が1グレイ(放射線のエネルギー量の単位)増すごとに心筋梗塞の発症、ステントないし動脈バイパス処置、あるいは心臓疾患での死亡のリスクが7%高まると計算している。既に心臓疾患の恐れがあった女性のリスクは照射後に一段と高まった。

 米国で毎年乳がんと診断される21万1000人の女性のほぼ半分は、化学療法や手術に加えて放射線療法も受けている。この療法は、特に腫瘍摘出—腫瘍だけで乳房全体は切除しない—を受けた人や乳房切除(mastectomy)を受け再発のリスクが高い人、あるいは既にリンパ節に転移している人に勧められる。

 放射線腫瘍医で「Breastcancer.org」の創設者マリサ・ワイス博士は、最新の放射線機器では「ミリメートル単位で照射できる」と述べた。「respiratory dating」と呼ばれる技術では、患者の一呼吸ごとに心臓の状況を監視し、心臓が最も影響を受けやすい時には照射を瞬間的に中断することができるという。また、一部の病院では、心臓への負担を少なくするために乳房の一部分だけに照射している。

 論説は、この研究がアテローム性動脈硬化というタイプの心臓疾患しか調べておらず、また他の方法でも放射線は心臓組織にダメージを与えることが知られていることから、研究結果は氷山の一角である可能性があると警告している。調査対象の女性の中には、同様に心臓に悪影響を与えることのある化学療法を受けた人はほとんどいなかった。

 同論説は、こうした研究は「心臓腫瘍学」と呼ばれる新しい医学領域にとって役立つとし、がん治療の計画を立てる際には心臓医も早い段階から参加すべきであることを示唆している。ワイス博士は「グッドニュースは、乳がんと診断を下されたあと女性が長い期間生存する傾向にあることだ。そのため長期的な副作用が極めて重要な問題になってきた」と話している。