2014年2月24日
イギリスの医学雑誌BMJ誌に、マンモグラフィーによる乳がん検診は通常の視触診やケアと比較して乳がんによる死亡を減らす効果がなかったとする論文が掲載されました(Miller AB et al., Twenty five year follow-up for breast cancer incidence and mortality of the Canadian National Breast Screening Study: randomised screening trial., BMJ., 348:g366
(2014) )。
対象はカナダの40歳から59歳までの女性約9万人で、25年間追跡調査されました。数も期間も十分であるようです。ランダム化もされており質の高い研究と言えます。25年間の追跡調査期間中、マンモグラフィー群4万4925人のうち乳がんによる死亡は500人でした。一方で、対照群では4万4910人中505人でした。ほとんど差がありません。
これまでの同様の調査の主な結果は、「乳がん検診は乳がん死亡を減らす」というものでした。40歳代の女性については過剰診断による害が無視できないとして議論があるものの、50歳以上の女性については国際的にも乳がん検診が推奨されています。今回のカナダの報告では、40歳から49歳までの集団と、50歳から59歳までの集団での結果はほとんど同じであったとありますから、50歳代の女性に限ってもマンモグラフィーによる乳がん検診は乳がんによる死亡を減らさなかったわけです。
このように研究によって結果がまちまちになることは、医学の世界ではよくあります。研究方法や対象が異なるからです。今回のカナダでの研究と、これまでの研究はどこが違うのでしょうか。
マンモグラフィーの技術に問題があった、という可能性はどうでしょうか。マンモグラフィーとは乳房をX線で撮影する検査です。検査そのものの手技や、レントゲンフィルムに映った早期の乳がんを見落とさないためには技術が必要です。ただ、カナダのマンモグラフィーの技術が劣ると積極的に考える理由はないように思います。
対照群の受けた処置も影響しているかもしれません。この研究が開始された1980年の時点ですでに50歳から65歳までの女性に対する乳がん検診の利益が報告されており、対照群を完全に放置することは倫理的に問題がありました。そのため50歳代の対照群の女性は通常の胸部診察(視触診)を受けました。対照群に何の検査もしないよりはマンモグラフィー群との差が出にくくなります。
これまでとの研究との違いの理由として、著者らが示唆しているのは、補助療法の有無です。具体的には再発目的で施行される手術後の抗がん剤治療のことです。進行がんの治療法が進歩すると、がん検診の効果は小さくなります。
仮の話として、進行したがんでも完全に治してしまう治療法が開発されれば、わざわざ検診でがんを早期発見しなくても、進行して症状が出てから治療すればいいわけです。もちろん現実には進行したがんはやっぱり治りにくいのですが、最近の乳がんの化学療法の進歩は乳がん検診の効果を相対的に小さくする方向に働きます。
カナダの研究はすでに激しい議論を巻き起こしています。大事なのは、早期発見が常に良いとは限らず、検診の対象者や検査の質や治療法によって、がん検診の有効性は変わりうるということです。日本において検診の有効性はどうなのか、検証が必要です。