2015年5月18日月曜日

早期乳がん女性患者のほとんどが広範囲のリンパ節摘出を回避―根治施術はもはや不要との科学的証拠の支持増加

キャンサーコンサルタンツ
2015年4月6日

米国外科学会(ACS)からの情報

シカゴ発(2015年3月26日):早期乳がん女性患者に関する新たな研究によれば、隣接リンパ節生検でがんが見つかった場合、外科医が腋窩部分のリンパ節の大部分を切除するのはもはや一般的ではないことがわかった。これは乳がん治療において大きな変化である。米国人乳がん患者270万人のデータを評価した本研究結果は、年内の出版に先立ち、Journal of the American College of Surgeons 誌電子版に「近刊予定記事」として公開されている。

米国外科学会腫瘍グループZ0011(American College of Surgeons Oncology Group Z0011)、つまりACOSOG Z-11試験として知られる画期的な臨床試験結果が4年以上前に公表されたが、その結果に基づく提言に外科医がどの程度まで従っているか、これまで不明であった。研究者の報告では、センチネルリンパ節(最初にリンパ流を受けるリンパ節)に腫瘍がある早期乳がん患者で、乳房部分切除を受けた人のほとんどは、腋窩リンパ節郭清(ALND)と呼ばれる、脇の下に残っているリンパ節の摘出によって受ける利益はないとされていた。当時の調査では、ALNDを受けた患者と、ALNDを受けず再発の有無について経過観察された患者との間で、がん再発および5年生存率に違いは認められなかった。

今回の新たな研究では、がんを含むセンチネルリンパ節を発見後にALNDを行わず、がんが最初に転移しやすい「見張り番」リンパ節であるセンチネルリンパ節生検(SNB)切除のみを受けた乳房部分切除患者の割合が飛躍的に増加したことがわかった。研究著者らによると、SNBのみを行った患者の比率は、2010年9月ACOSOG Z-11試験初回結果の公表前年2009年の23%から公表後初年度2011年の56%へと2倍以上に増加した。

「私の知る限り、私たちの研究はACOSOG Z-11試験の知見が乳がん患者への臨床診療を全国的に変えたことを初めて明らかにしたものである。SNBのみを受けた患者の方がリスクが低いことから、Z-11試験の影響は非常に大きい」と、主著者Katharine Yao医師は言う。Yao医師は、米国外科学会会員(FACS)、イリノイ州エバンストン市のノースショア大学保健システム科乳がん外科教室部長、シカゴ大学プリツカー医学部臨床外科准教授である

Yao 医師によると、SNBのみで少数のリンパ節を摘出すれば、重症となることが多いリンパ浮腫合併症を起こす生涯リスクが大幅に下がる。皮下にリンパ液が溜まると、腫れて痛みを伴うこともある。今回の新たな研究では、Yao医師らは米国外科学会(ACS)がん委員会(CoC)と米国がん協会の共同プロジェクトである米国がんデータベース(NCDB)を利用した。NCDBは、CoCの認定を受けた約1500件のがんプログラムから米国で新たにがんと診断された症例の推定70%を収集する。

NCDBでは、実施されたリンパ節郭清術の型(SNBまたはSNB+ALND)を確認できないが、研究者らは、これらの型の識別として、切除したリンパ節の数を用いた。リンパ節切除4個以下をSNBのみ、リンパ節切除10個以上をALNDと分類した。

1998年から2011年の間に乳がんと診断されてデータベースに載った272万人の症例のうち、74,309人の患者がSNBのみ実施のZ-11試験適格基準を満たすことがわかった。Z-11試験適格基準とは、乳房部分切除と全乳房放射線照射を受けていること、臨床的リンパ節転移陰性と思われる5cm以下(2インチ未満)の腫瘍があること、切除縁が陰性(切除乳房組織の外縁でがん細胞が確認されない状態)であること、腫瘍陽性センチネルリンパ節が2個以上であることである。

SNBのみ実施の比率は、1998年の6.1%から、研究時最新データである2011年の56%まで増えたという報告であった。このZ-11試験結果は2011年当時の最新データであったことから、2012年にはさらに増えているものと思われるとYao医師は語っている。

統計解析の結果、乳房部分切除患者は、ハイリスクとみなされる特性[50歳未満、黒色人種、トリプルネガティブ腫瘍(ほとんどの乳がんの成長を助長するとされる最も一般的な受容体3種の欠如)、大きな腫瘍(3cm以下)]を一つでも有する場合、ALNDを受ける確率が高かった。さらに腫瘍転移陽性センチネルリンパ節が2個ある患者は、1個の患者に比べて、ALNDを受ける確率は2倍になった。2mm以上の腫瘍転移がある患者は、微小転移と呼ばれる小さながん転移がある患者に比べて、ALNDを受ける確率は3倍以上になった。

Yao医師らの研究結果によれば、Z-11試験はハイリスク患者も対象としていたにも関わらず、ハイリスク患者にALNDを実施しないことに抵抗を感じる医師がいるようである。Yao医師は、Z-11試験結果がハイリスク患者にも適用可能であることを外科医に広く認識させ、ハイリスク患者の長期的追跡調査を実施する必要性を訴えた。研究者らは、Z-11試験適格基準のうち1項目を満たしていない400,052人の乳がん症例も解析した。この解析結果は「やや驚くべきものであった」とYao医師は述べている。

Z-11試験に乳房切除患者は含まれていないが、 2011年に乳房切除手術を受けた患者の22%以上がSNBのみを受けたとの報告である。さらに、推奨値の5cmを越える腫瘍がある患者、または、放射線治療をまったく受けないか、全乳房照射ではなく部分照射を受けた患者の50%以上がALNDを受けずSNBのみを受けていた。

「Z-11適格基準外の患者がSNBしか受けていないのは、やや懸念すべき問題である。乳房切除患者におけるSNBのみの実施は、全体的な転帰への影響が不明であるため、意見が分かれる問題である」とYao医師は述べている。

Yao医師以外の研究著者は以下のとおり。Erik Liederbach 理学士;Catherine Pesce医師;Chi Hsiung Wang医学博士;David J. Winchester 医師、FACS。
全員、ノースショア大学保健システム科所属。
FACS:米国外科学会会員(Fellow of the American College of Surgeons)外科医。

この研究結果は、カリフォルニア州インディアンウェルズで昨年11月に開催された2014年Western Surgical Association年次総会で発表された。