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エストロゲンが乳がんにおいてp53を遮断する
ほとんどの乳がんは、核内ホルモン受容体かつ転写因子であるエストロゲン受容体(ER)によるシグナル伝達の異常と関連があり、ER依存性(ER+)乳がん細胞はその生存のためにエストラジオール(E2)などのエストロゲンに依存する。ER+乳がんは、ERの部分的アンタゴニストであるタモキシフェン、または完全アンタゴニスとであるフルベストラントにより治療される。
タモキシフェンには、部分アゴニスト活性があることから、抗癌作用が不完全である可能性が指摘されていた。
フルベストラントは、ステロイド性抗エストロゲン薬に分類される薬剤である。部分アゴニスト作用は有しておらず、タモキシフェンより強いエストロゲン拮抗作用を示す。また、乳癌細胞においてエストロゲン受容体をダウンレギュレートする効果を持つ。ほとんどのER非依存性乳がんでは、アポトーシス促進性の腫瘍抑制タンパク質のp53が突然変異している。ER+乳がん細胞では野生型p53が発現しているが、これらの細胞の化学療法誘発性のアポトーシスは、エストロゲンによって抑制される。
Baileyらはゲノムワイド解析、および生存能とアポトーシスのアッセイ(分析、評価)を行ない、ER+乳がん細胞におけるp53の機能について検討した。ドキソルビシン(p53を活性化する抗がん剤)により誘導されるER+MCF7乳がん細胞のアポトーシスを、E2とタモキシフェンは別個に抑制した。しかし、フルベストラントにはそのような作用はなかった。
マイクロアレイ解析によって、ドキソルビシンとE2は二組の遺伝子の発現に対して相反する作用を示すことが明らかになった。すなわち、増殖を抑制する産物をコードする一組の遺伝子をドキソルビシンは抑制し、E2は活性化するのに対して、アポトーシスを促進する産物をコードする別の組の遺伝子をドキソルビシンは活性化し、E2は抑制した。クロマチン免疫沈降アッセイによって、これらの別々に発現される遺伝子のサブセットは、ERとp53の両方に対する結合部位を含むことが示された。
またE2、ドキソルビシン、またはその両方で処理したMCF7細胞の遺伝子発現解析によって、ERはアポトーシス促進産物をコードする遺伝子のp53依存的発現を抑制することが明らかになった。タモキシフェンはE2と類似する作用を有するのに対して、フルベストラントはこれらの遺伝子のp53依存的発現を抑制できなかった。
乳がんの遺伝子発現プロファイリングから、ドキソルビシンによって活性化され、E2によって抑制される遺伝子の発現が亢進している患者は、その反対のプロファイルを有する患者に比べて生存率が高いことが示された。まとめると、これらのデータは、効果的な乳がん治療とは、p53を活性化する薬物とフルベストラントの併用によって(タモキシフェンとの併用ではなく)、ERシグナル伝達を完全に抑制し、p53への拮抗作用を阻止することであることを示している。
J. F. Foley, Estrogens Block p53 in Breast Cancer. Sci. Signal. 5, ec284 (2012).