2012年9月21日金曜日
がんに針を刺すと、その針穴から細胞がこぼれて転移が起きると信じられていたので
がん内科医の独り言
がんの性格(3)病理診断治療とともに進歩
2012年09月21日
がん治療は外科から始まったので、がんの性格を調べる病理診断の最大の関心事は、手術で切り取ることができるかという点でした。
がんが最初にできた原発病巣から、がん細胞がこぼれ落ちるようにして血液やリンパ液の流れにのり、他の臓器に移ることを転移と呼びます。転移前に急いでメスで切り取れ、というのが、古典的な治療の考え方でした。
病理診断もこれに合わせて発達し、早期とか、手遅れという、時間的に間に合った、間に合わないという理屈が生まれました。外科医から、即入院、即手術と言われ、慌てた患者も少なくないはずです。
がんの性格に関する理解が進み、増殖、転移が早く、原発病巣が数ミリなのに転移をおこす性格の悪いタイプから、転移しにくいおとなしいタイプまで、様々なタイプが存在するという考え方が普及しました。
手術前に調べ、性格が悪ければ、急いで手術をしてもすでに細かな転移がこぼれ落ちているだろうし、性格のよいがんは慌てて手術する意味もない、となります。しかし、がんに針を刺すと、その針穴から細胞がこぼれて転移が起きると信じられていたので、まず手術という風潮がありました。手術全盛時代のことです。
ところが、約30年前に、乳がん、前立腺がんに対するホルモン剤が開発されました。いまや、乳がんではホルモン剤が効きやすい性格かを病理診断で決めるのが一般的です。
21世紀に入り、分子標的薬剤という新しいタイプの薬剤が乳がん、リンパ腫、肺がん、大腸がん、腎がん、肝臓がんなどを対象に続々と開発されました。治療が合えば、今まで経験したこともない効果が得られるようになったのです。
最近では慌てて手術するのではなく、針を刺すなどしてがんの一部を採取し、治療薬が効きやすいかを調べる。つまり戦う相手を見極めることが大切になりました。