がん予防の乳房切除を承認 鹿児島の病院倫理委
(共同) 2013年6月13日 21時48分
鹿児島市の相良病院(雷哲明院長)は13日、遺伝性乳がんの予防のため、健康な乳房を切除する手術を院内の倫理委員会が承認したと明らかにした。今後、希望者の事情に応じて倫理委で個別に審理し、実施の可否を判断する。現時点での希望者の有無は公表していない。
切除手術は、米人気女優アンジェリーナ・ジョリーさんが受けたことで話題となった。国内では聖路加国際病院(東京都)が既に倫理委員会で承認。がん研有明病院(同)も倫理委に申請する方針だが、国内ではほとんど実施されていない。
相良病院によると、発症リスクを高める遺伝子「BRCA1」か「BRCA2」に変異があった成人女性が対象。
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社説:乳がん予防手術 遺伝子診断知る契機に
毎日新聞 2013年06月13日 02時30分
がんの多くは遺伝しないが、中には遺伝性のものがある。家系の中にがんにかかる人が多く、発病の年齢が若い場合は、要注意だ。
そうした遺伝性のがんの中には、遺伝子診断で将来の発がんリスクを予測できるものがある。女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが受けた乳がん遺伝子「BRCA1、2」の診断もそのひとつだ。
米国のデータでは、この遺伝子のいずれかに変異があると、生涯で乳がんになる確率は最大で80%程度、卵巣がんになる確率が最大で60%程度と推定されている。多数の遺伝子と環境の影響で発病リスクが決まる通常のがんと違い、ひとつの遺伝子が発病リスクを大きく高める。ジョリーさんが行った「乳腺の予防的切除」が米国で「標準的な選択肢のひとつ」となっているのも、そのためだろう。
ただし、乳腺切除には合併症などのリスクもあり、第一選択として勧められているわけではない。定期検診で早期発見に努めるのも、重要な選択肢だ。
日本でも、乳がん遺伝子の検査は80以上の医療機関で受けられる。ジョリーさんのような未発症者の「予防的切除」の準備を進める病院も出てきた。気にかかるのは、日本では遺伝性のがんや遺伝子診断、発症予防についての正しい知識が行き渡っているとはいえない点だ。遺伝子変異がわかった場合に血縁者にどう伝えるかといった課題もある。
医療関係者は、まず、遺伝性のがんや遺伝子診断の正しい情報をリスクがある人にきちんと伝えてほしい。その上で、遺伝子診断を受けるかどうか、予防のための選択肢は何か、リスクと利点を丁寧に説明する必要がある。
日本には遺伝子変異とリスクを結びつけるデータが足りない点にも留意したい。欧米と変わらないとも言われるが、日本人のデータ集積も進める必要がある。日本では乳がんの遺伝子診断は保険が利かず高額だ。診断やそれに基づく検診を国がどう扱っていくかも検討してほしい。
乳がんだけでなく、検診での発見が難しい卵巣がんのリスクにも注意が必要だ。遺伝性のがんには大腸がんや甲状腺のがんもある。乳がんだけにとらわれないようにしたい。
医療に遺伝子情報が利用されるケースは、今後、ますます増えるはずだ。その際には、正しい情報を基に個人個人の選択を支える「遺伝カウンセリング」が重要だが、日本には専門の遺伝カウンセラーが少ない。ジョリーさんの選択で関心が高まったことをきっかけに、遺伝子診断について知識を広げ、そのあり方を改めて考えたい。
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愛知県がんセンター 乳がん予防切除、年度内にも可能に
(2013年6月14日) 【中日新聞】【朝刊】
遺伝子変異の患者 東海・北陸初
愛知県がんセンター(名古屋市千種区)は早ければ年度内に、遺伝性乳がんと卵巣がんの予防のための切除・摘出手術を実施できる態勢を整える。国内では聖路加国際病院(東京)が、遺伝性乳がん患者の、がんになっていないもう一方の乳房切除を既に実施。東海・北陸地方で、手術できる態勢に入るのは、同センターが初めてとみられる。
遺伝性乳がんの予防的な切除手術は、米国女優アンジェリーナ・ジョリーさんが自ら受けたことを公表して話題になった。
愛知県がんセンターでは年間500人が乳がん治療を受ける。今年4月から治療中の乳がん患者に対し、家族の発症歴や遺伝子変異で発症する確率、遺伝子検査について説明する遺伝カウンセリングを始めた。
検査で遺伝子変異が確認された患者は、もう一方の乳房ががんを発症する確率が高く、さらに卵巣がんになる可能性も高い。岩田広治副院長は「遺伝子変異が分かった患者のために、選択肢を用意する必要がある」と言い、患者が予防的に乳房や卵巣を切除、摘出することを希望した場合に、応じられる態勢づくりを進めてきた。
技術的には3年前から乳房再建術を開始。昨年、卵巣がん患者へ腹腔(ふくくう)鏡での卵巣摘出手術を始め、予防的手術をできる環境にある。近く院内の倫理委員会に申請し、年度内に手術が可能な態勢を整える。
予防的手術は保険適用されず、全額自費。遺伝子検査と乳房切除・再建手術を合わせて約100万円程度になる見込み。岩田副院長は「将来的には保険診療の枠組みでできるようになるべきだ」と話し、一部保険適用となる「先進医療」として国に届け出る方針。
東海地方ではほかに、藤田保健衛生大病院(愛知県豊明市)が腹腔鏡での予防的卵巣摘出手術について、院内の倫理委員会に申請中。乳房切除についても今後準備を進めていくという。
遺伝性乳がんと卵巣がん 血液中のがんを抑制する遺伝子「BRCA1」または「BRCA2」の変異が原因で発症する。乳がん全体の中で、遺伝性の割合は全体の5%。変異があると、ない人に比べ、乳がんになる確率は10~19倍、卵巣がんは15~40倍高いとされる。