2013年10月16日水曜日

ジエンド・オブ・イルネス ~ がん治療医がたどり着いた「病気の真実」

特定の遺伝子の変異はがんとの関連が指摘されている。たとえば、BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子の変異は乳がんのリスクを高めることがわかっている。この変異は、アシュケナージ系ユダヤ人によく見られるが、それが乳がんを引き起こすわけではないことを理解しておく必要がある。BRCA1あるいはBRCA2の変異を親から受け継いでいても、乳がんになると決まっているわけではないのだ。

 このように、がん遺伝子と言われるものの多くは、がんに対する脆弱性を伝えはするものの、がん自体を伝えるわけではない。BRCA1とBRCA2の変異遺伝子は、DNAの修復を妨害すると予測されるが、必ずしも乳がんの発症につながらないのは、DNAを修復する方法は、ほかにもたくさんあるからだ。さらに言えば、乳がんに苦しむ女性の大多数は、変異していないBRCA遺伝子を持っている。この事実は、がんの発症に、遺伝子より強く影響する何かが存在することを語っている。

 ここでもう一度、システムという見方に戻ってみよう。がんは、細胞内、あるいは細胞間の対話(つまり、システム)がうまくいかなくなった状態である。その結果、細胞たちは、分裂すべきでないときに分裂し、死ぬべきときに死のうとせず、不要な血管を作り、互いを欺き続けるのだ。このように制御不能になった細胞システムを、私たちはがんと呼び、それが起きている体の部位(肺、前立腺、肝臓など)によって呼び分けている。しかし、それは実は「悪いもの」ではなく、システムが壊れた「状態」なのだ。

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