2015年1月31日土曜日

タモキシフェンにより高リスク女性の乳癌発症率が低下(IBIS-I試験結果)/米国癌学会(AACR)

海外癌医療情報リファレンス 2015年1月31日

原文:2014年12月11日

乳癌リスクの高い女性を対象とした国際共同乳癌治療試験-I(IBIS-I)で中央値が16年間である追跡調査を実施した結果、タモキシフェン投与により乳癌全体の発症率が有意に減少した。試験成績は2014年12月9日から13日に開催されたサンアントニオ乳癌シンポジウムで発表された。

「IBIS-I試験は、乳癌リスクの高い女性に、乳癌を予防する目的でタモキシフェンを投与した場合の長期的なリスクおよび利益を検討するようデザインされた試験です」とロンドン大学クイーン・メアリー、ウルフソン予防医学研究所所長兼ジョン・スノー疫学教室教授であるJack Cuzick博士は述べた。

「今回の試験で乳癌の発症率は低い水準のままに20年間持続して維持できることがわかりました。ただし、子宮内膜癌に起因する死亡率やエストロゲン受容体(ER)陰性癌の発症率に関しては懸念があります。しかしながら、これらの発症率に統計学的な有意性はなく、研究結果は偶発性の可能性があります」。

「閉経後の女性にとっては、アナストロゾールやエキセメスタンなどのアロマターゼ阻害薬による治療が、効果の高さや副作用の低減(副作用面での優位性)といった観点から、より優れた治療選択肢になると考えられます。しかし閉経前の女性にとっては依然として、タモキシフェンによる治療が唯一の有効な選択肢なのです」とCuzick氏は続けた。

IBIS-I試験に登録した閉経前および閉経後の女性7154人の中、3579人がタモキシフェン20 mgを5年間連日投与する群に、3575人が対応するプラセボを5年間投与する群に無作為に割り付けられた。主に乳癌の家族歴のために乳癌リスクが増大しているとされる35歳から70歳までの女性が参加した。

この試験の主要評価項目は非浸潤性または浸潤性乳癌の発症率で、副次評価項目は全死亡率、他の癌種での死亡率、および乳癌に特異的な死亡率であった。

中央値で16年間の追跡期間中に、タモキシフェン投与群の女性246人およびプラセボ群の女性343人が乳癌を発症した。プラセボ群と比較したタモキシフェン群の乳癌発症の低下率は29%であった。ER陽性乳癌の発症率では35%の低下がみられたが、ER陰性乳癌においては効果が認められなかった。

試験期間中にホルモン補充療法(HRT)を受けなかった女性のほうがより大きな利益を得た。すなわち、HRTを並行して受けなかった女性におけるER陽性乳癌の発症率は45%低下し、乳癌全体でみても38%低下した。

乳癌による死亡率には群間で差はなかったが、タモキシフェン投与を受けた女性では、有意性はないものの、全死亡率の上昇が認められた。しかしながらCuzick氏によると、96カ月目の追跡調査報告で認められた率よりも低かった。子宮内膜癌および非メラノーマ皮膚癌の発症率上昇、大腸癌発症率の低下がみられた。他の癌種では、全体としての発症率は上昇したが有意差はなかった。

「乳癌の発症率を長期にわたって低く維持できたことから、重要な知見が得られました。しかし、死亡率に対する影響という点にはまだ不確実な部分が残っています」とCuzick氏は述べた。

本試験は英国癌研究およびアストラゼネカ社から資金援助を受けた。Cuzick氏は本試験に関してアストラゼネカ社を代表して発表している。

2015年1月26日月曜日

生検により癌は拡散しないとの研究結果/メイヨークリニック

015年1月11日
フロリダ州ジャクソンビル−−フロリダ州にあるメイヨークリニック・ジャクソンビル総合病院で治療を受けた2000人超の患者を対象とした研究によると、癌生検によって癌が播種(拡散)するという迷信が否定される結果となった。研究班は1月9日のGut誌電子版の中で、生検を受けた患者の転帰は受けなかった患者よりも良好であったと発表している。

画像は、膵臓を生検針で穿刺する様子を超音波内視鏡で描出したものである。超音波内視鏡は胃内に存在(経口鏡を使用)。超音波内視鏡先端の超音波プローブにより胃に隣接する膵臓の描出が可能。超音波ガイド下で長い生検針を内視鏡から通し、腫瘍を穿刺している。

研究班の対象は膵癌であったが、本研究で用いられた診断手法(穿刺吸引細胞診)は腫瘍の種類を問わず用いられるため、この結果は他の癌でも当てはまるではと考えられる、と本研究の主任研究者で消化器科医のマイケル・ウォレス医師(公衆衛生学修士、内科学教授)は語った。

穿刺吸引細胞診は、細い中空針を用いて腫瘍から数個の癌細胞を抽出する低侵襲の手技である。生検により癌が播種されるという思い込みが、多くの患者や医師の中にさえ長い間存在しつづけてきた。

その可能性が考えられる症例は数例あるものの(極めてまれだが)、生検に対して心配する必要は全くないとウォレス医師は語る。

「研究結果を見れば、医師も患者も生検が非常に安全だと思い直すはずです。米国内では癌生検が毎年何百万回も行われています。ですが、その中の1、2例のために、生検が癌を播種させるという迷信がこれほどまで有名になっているのです」。

生検は「テーラーメイド治療を行う上で非常に価値のある情報を与えてくれます。ある症例では、より良好な転帰のため手術を行う前に化学療法と放射線療法を行うこともできますし、またある症例では、手術をはじめとした無用な治療を行わないという選択ができるのです」とウォレス医師は語る。

膵臓癌の手術は「非常に大きなオペレーション」であり、「ほとんどの人は手術を行う前に癌の存在を確認したいと思うはずです」とウォレス医師は語る。ある研究によると、膵癌疑いで手術を受けた患者のうち9%は良性腫瘍であったという結果が出ている。

ウォレス医師とその研究班は、生検のリスクを検証するための研究を個別に2回行っている。

2013年にEndoscopy誌に掲載された研究では、研究班はメイヨークリニックで治療を受ける256人の膵臓癌患者の転帰について検証した。研究班は、超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診(EUS-FNA)を受けた患者208人と受けなかった患者48人との間で、癌の再発に差がないという結果を示した。

今回の研究では、研究班は手術を受けた非転移性膵癌患者に関するメディケアのデータ11年分(1998年~2009年)を調査した。研究班は、EUS-FNAを受けた498人と受けなかった1536人の全生存期間と膵癌特異的な生存期間を調査した。

平均追跡期間21カ月の中で、死亡者はEUS-FNA施行群のうち285人(57%)、EUS-FNA未施行群のうち1167人(76%)であった。膵癌が死因であると判定した患者はEUS-FNA施行群のうち251人(50%)、EUS-FNA未施行群のうち980人(64%)であった。

全生存期間の中央値はEUS-FNA施行群で22カ月、EUS-FNA未施行群で15カ月であった。

「生検はきわめて有効です。生検を行うことで患者にあった医療、つまり患者一人ひとりに合わせ、できる限り良好な転帰を得られるよう計画した治療を行うことができるのです」とウォレス医師は語る。

共著者には、ミネソタ州のメイヨークリニック・ロチェスター総合病院の研究者も参加している。

2015年1月8日木曜日

生活習慣と遺伝子からがん予測 愛知県がんセンター

2015年1月8日 中日新聞朝刊

 愛知県がんセンター(名古屋市千種区)は、健康な人が将来どの部位のがんにかかりやすいのか、遺伝子と生活習慣から確率を出すプログラムの開発に乗り出した。三年以内の実用化を目指す。結果を見てリスクの高いがん検診を受けたり、生活を改善したりして、より効果の高い予防につなげる。遺伝子情報から病気のリスクを判定する方法は、既に民間などにあるが、生活習慣と関連づける判定は珍しい。

 がんセンターには研究所と中央病院などがあり、がん患者の遺伝子を調べて個人にあった治療に力を入れている。研究所は一九八八年から、がんやがんの疑いで訪れる初診患者を対象に生活習慣を調査。二〇〇一年からは患者の同意を得て血液で遺伝子を採取し、遺伝的な体質と生活習慣が発がんにどう関係しているか、分析を続け、患者のデータ約三万件が蓄積されている。

 研究所疫学・予防部の田中英夫部長(52)によると、これまでの研究で遺伝的に酒を飲めず、一定以上の喫煙量がある人は酒が飲める人より肺がんになりやすいことや、遺伝的にある程度の酒が飲める人でも、大量に飲酒を続けると、胃がんになるリスクが高まることなどが分かってきた。

 プログラムはこうしたデータや研究成果を活用。対象は日本人に多く、生活習慣との関係が指摘される肺がん、胃がん、大腸がん、乳がんを想定。採血による遺伝子検査と生活習慣を調べるアンケートで、七十五歳になるまでにがんにかかる確率を計算。一定以上のリスクの高い人には、定期的な精密検査や生活習慣の改善を指導する予定。

 実用化に向け、昨年十一月から愛知県内に住む四十五~六十五歳の健康な女性三十人に、乳がんになるリスク検査の試験を開始。乳がんは特定の遺伝子変異や肥満がリスクを高めることが知られ、今後は結果を知った対象者が生活習慣の改善に取り組んでいるか、心にどういった影響を与えるかなどを調べる。その他のがんについても順次、試験を実施し、内容と精度を高めていく。

 田中部長は「現在は誰もが一律にがん検診を受けているが、リスクが高いと判定された臓器を重点的に受ければ、効率的な予防が期待できる」と話している。

左乳房の乳ガンの放射線治療時に心臓の被爆量を減らすには大きく息を吸い込むと良い

(2015年1月) 左乳房の乳ガンに対して放射線治療を行うことによって心臓病のリスクが増加することが知られていますが、"Practical Radiation Oncology" 誌オンライン版に掲載されたトーマス・ジェファーソン大学の研究によると、放射線治療時に大きく息を吸い込み肺をふくらませることによって、心臓に放射線が当たる量を大幅に減らして心臓病(虚血性心疾患)になるリスクを低下させられると思われます。

この研究では、左乳房にステージ0~Ⅲの乳ガンがある患者81人に、放射線治療時に大きく息を吸い込んでもらいました。 その結果、心臓への放射線被爆量が中央値で62%減っていました(被爆量を20%以上減らせた患者は88%)。

その後81ヶ月の追跡調査に基づくこれらの患者の8年間生存率の推算値は、乳ガンが再発しない状態での生存率(disease-free survival)は90%、(再発したケースを含む)全体での生存率は96%というものでした。

2015年1月3日土曜日

3Dプリンター×ヒトのコラーゲン、幹細胞で移植用組織 感染症回避

2015.1.3 07:55

ニッポンのすご技!3Dプリンター×ヒトのコラーゲン、幹細胞で移植用組織 感染症回避 東大病院と富士フイルムなど技術開発/5年後の実用化目指す

東京大学医学部付属病院と富士フイルムなどが、立体の造形物を簡単に作製できる3Dプリンターと遺伝子工学を駆使し、人体に移植できる皮膚や骨、関節などを短時間で量産する技術を確立したことが2日、分かった。移植の難題となっている感染症の危険性を低く抑えられるのが特長。世界初の技術といい、5年後の実用化を目指している。

 開発したのは、東大病院顎(がく)口(こう)腔(くう)外科の高戸毅教授らの研究チーム。肝臓など臓器にも応用する考えで、体外で生成した健康な組織を患部に移植する「再生医療」を大きく前進させる可能性がある。

 高戸教授によると、病気やけがで皮膚、骨、軟骨、関節の移植が必要な患者は国内で計2千万人以上。現在は患者本人の患部以外から切除した組織を使うなどしており、体への負担が大きい。

 患者の負担を減らす方法として、国内ではウシなど動物の組織とプラスチック素材を主な原料に3Dプリンターで移植用組織を作る技術がある。ただ感染症のリスクがあり、組織が人体になじむ「同化」に2~3年はかかる。頭蓋骨や大(だい)腿(たい)骨(こつ)といった強度の必要な組織の作製も難しいという。

 研究チームは今回、皮膚や軟骨、骨などの基本構造の7割以上が、タンパク質の一種であるコラーゲンでできていることに着目。富士フイルムが遺伝子工学を駆使して開発したヒトのコラーゲン「リコンビナントペプチド(RCP)」を活用することで、感染症リスクの低減に成功した。

 RCPに患者本人から取り出した幹細胞や細胞の増殖を活性化させるタンパク質「成長因子」などを混ぜて医療用に改良した3Dプリンターに装(そう)填(てん)。CT(コンピューター断層撮影装置)で得た体内組織のデータを活用して2~3時間で目的の組織を作製する。患者ごとに違った形、大きさにすることも可能という。

 高戸教授は「感染症リスクの低下だけでなく、数カ月間での自然同化も可能」と説明する。動物実験では良好な結果が出始めているという。厚生労働省から必要な許認可を得た上で、5年後の実用化を目指す。

 再生医療に詳しい埼玉医科大学形成外科・美容外科の中塚貴志教授は、今回の技術開発について「3Dプリンターが、再生医療に欠かせない医療機器に進化するための重要なステップになる」と話している。