2014年4月8日火曜日

アンジーの主治医 日本の乳がん事情に「ショック」

 昨年5月、米女優のアンジェリーナ・ジョリーさん(38)が遺伝性乳がんの発症予防のために乳房切除と再建手術を受けたと告白した。手術を担当したクリスティ・ファンク医師(44)が、理化学研究所が主催するシンポジウムのため、来日。講演後に本誌のインタビューに応じた。

 今回のアンジーの告白は、アメリカではどう受け止められているのか。ファンク医師は、「患者の家族や親戚など、まわりの人が、(予防的切除について)理解を示すようになった」と歓迎する。

「患者さんの多くは、“アンジーに感謝している”と話していました。なかには涙ぐむ人もいましたね」

 実は、遺伝性乳がん(正式には遺伝性乳がん・卵巣がん症候群:HBOC)に対して先進的な医療を実践しているアメリカだが、一部では予防的切除について、家族や親族から理解を得られず、批判されることもあった。それが患者を苦しめていたという。

「それが今回の告白で、周囲の予防的切除への理解が深まり、自分が選択したことについて支援を得られるようになったのです」

 今回のインタビューでは日本のHBOCに対する取り組みについても聞いた。

 日本では予防的切除はもとより、HBOCの存在すら一般的ではなく、アンジーの告白でにわかに注目された。その結果、遺伝カウンセリングや遺伝子検査を実施する医療機関が増えた。とはいえ、それも十分ではない。例えば、HBOCの診断に必要な遺伝子検査は、健康保険が使えず、自費で20万~30万円かかる。がんになっていない反対側の乳房や卵巣の予防的切除は一部の医療機関で始まったが、がん発症前の乳房切除はまだ行われていない。

 これを知ったファンク医師は、「ショック」と驚く。

「(切除が受けられないのであれば、その前段階として)まずは、50歳以下の乳がん患者全員に遺伝子検査を受けてもらうこと、それから家族歴の調査を実施すること。この二つを実践すれば、リスクのある方が危険にさらされたままという状況が回避できます」

 さらに、日本に限らず多くの国でHBOCの対策が遅れていることを指摘した。

「イギリスやカナダ、スウェーデンなど一部の国では自己負担でも遺伝子検査自体が認められていません。自分の遺伝情報を知りたいと望んでいる人がいて、それが実現可能にもかかわらず、ノーというのはどうなんでしょう」

 同センターでは潜在的なHBOC患者を見つけて、早い段階からケアをしたほうがいいという考えのもと、HBOCの疑いがある・なしにかかわらず、受診した患者全員に五つの質問に答えてもらっている。その結果からHBOCの可能性のある患者がいると、遺伝子検査を受けるよう話をする。ちなみに、検査にかかる負担を軽くするため、検査費用は無料にしている。

 HBOCと診断された後は、病気についてよく理解してもらった上で、年代に応じた検査を受けたり、希望者には予防的切除・再建や抗エストロゲン剤のタモキシフェン、経口避妊薬の投与を実施したりする。

 ファンク医師は、いつか日本でも予防切除ができるようになることを願う。「そのときは日本でも執刀したいわ」と笑った。

※週刊朝日  2014年4月11日号

がん精密検査 36万人受診確認できず

NHK NEWS WEB
がん精密検査 36万人受診確認できず
4月7日 17時30分

がん精密検査 36万人受診確認できず
市区町村が行う大腸がんや乳がんなどのがん検診で、がんの疑いがあるとして精密検査が必要と指摘されたものの、検査を受けていなかったり、受けたことが確認できない人が、全国で延べ36万人余りに上ることが厚生労働省のまとめで分かりました。

がん検診は胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮がんの5つのがんについて、子宮がんで20歳以上、そのほかのがんは40歳以上の人を対象に市区町村が行っています。
厚生労働省によりますと、平成23年度にがん検診を受けた人は、全国で延べ2550万人余りでこのうち5%に当たるおよそ137万人は、がんの疑いがあるとして精密検査を受けるよう指摘を受けたということです。

しかし、翌年の平成24年度末までに精密検査を受けていなかったり、受けたかどうか市区町村が確認できない人が、検査が必要と指摘された人の27%に当たる全国で延べ36万人余りに上ることが分かりました。

がんの種類別では、大腸がんが最も高く37%、次いで子宮がんが32%となっています。
がん検診に詳しい国立がん研究センターの斎藤博検診研究部長は、「自治体や検査機関は精密検査を受けたかどうか分かる体制を作り、個別に連絡を取って検査の必要性を説明するなど検診後のフォローを強める必要がある」と話しています。