2016年10月5日水曜日

受動喫煙の害は、「迷惑」や「気配り、思いやり」というレベルの問題ではない

受動喫煙の害 国立がん研究センター、JTコメントへ見解発表
2016/10/5

国立がん研究センターは先月28日、日本たばこ産業(JT)が8月31日に出した社長名のコメント『受動喫煙と肺がんに関わる国立がん研究センター発表に対するJTコメント』に対して、「国立がん研究センターが行った科学的アプローチに対して十分な理解がなされておらず、その結果、受動喫煙の害を軽く考える結論に至っている」との反論を発表した。

国立がん研究センターは8月31日、「受動喫煙による日本人の肺がんリスク約1.3倍、肺がんリスク評価『ほぼ確実』から『確実』へ」という研究結果を発表した。自分でたばこを吸わない日本人を対象に、他人のたばこの煙による受動喫煙と肺がんとの関連について、複数の論文を統合して解析した。その結果、受動喫煙のある人はない人に比べて肺がんになるリスクが約1.3倍高く、国際的な解析結果と同様であった。そこで、ガイドライン「日本人のためのがん予防法」において、受動喫煙を「できるだけ避ける」から「避ける」へと修正し、努力目標から明確な目標として提示した。受動喫煙による健康被害を公平かつ効果的に防ぐため、世界49カ国(2014年現在)で実施されている公共の場での屋内全面禁煙の法制化など、たばこ規制枠組条約で推奨される受動喫煙防止策を日本でも実施することが必要だとした。

JTのコメントは、上記の発表に対してその日のうちに出され、受動喫煙と肺がんの関係が確実になったと結論づけるのは困難だとした。その根拠として、受動喫煙を受けない集団でも肺がんを発症すること。また、複数の独立した疫学研究を統合して解析する手法は選択する論文で結果が異なり、統計学的に有意ではない結果を統合していることを挙げた。JTとしては、たばこを吸わない方々に受動喫煙は迷惑なものとなりうるので、周囲への気配りや思いやりをお願いしていると結んだ。

このJTのコメントに対して、国立がん研究センターは以下のように反論した。

受動喫煙による肺がんリスクは疫学研究のみならず、たばこ煙の成分の化学分析、および動物実験などの生物学的メカニズムの分析でも科学的に立証され、たばこ規制枠組み条約などで世界共通の問題として対策が進んでいる。しかし、日本人を対象とした個々の疫学研究では統計学的に有意な関連が示されていなかったため、これまで「ほぼ確実」とされてきた。今回、日本人を対象としても国際的な結果と同様に「確実」といえるだけの科学的な結論を示すことができた。また、今回用いた複数論文からの選択手法は、統合して解析する国際的なガイドラインに基づいており、「選択する論文で結果が異なる」といった恣意的なものではない。この場合、個々の研究が有意であるかどうかではなく、複数の研究で結果の方向性が一致しているか、統計学的に有意かどうかが重要である。

受動喫煙による疾病リスクが示された以上、たばこの煙にさらされるのは「迷惑」や「気配り、思いやり」の問題ではなく、人々の健康に危害を与えていると社会全体が強く認識すべきだ。受動喫煙による健康被害を防ぐため、公共の場および職場での屋内全面禁煙の法制化など、たばこ規制枠組条約で推奨される受動喫煙防止策を実施することが必要だ、とまとめている。