2016年10月5日水曜日

受動喫煙の害は、「迷惑」や「気配り、思いやり」というレベルの問題ではない

受動喫煙の害 国立がん研究センター、JTコメントへ見解発表
2016/10/5

国立がん研究センターは先月28日、日本たばこ産業(JT)が8月31日に出した社長名のコメント『受動喫煙と肺がんに関わる国立がん研究センター発表に対するJTコメント』に対して、「国立がん研究センターが行った科学的アプローチに対して十分な理解がなされておらず、その結果、受動喫煙の害を軽く考える結論に至っている」との反論を発表した。

国立がん研究センターは8月31日、「受動喫煙による日本人の肺がんリスク約1.3倍、肺がんリスク評価『ほぼ確実』から『確実』へ」という研究結果を発表した。自分でたばこを吸わない日本人を対象に、他人のたばこの煙による受動喫煙と肺がんとの関連について、複数の論文を統合して解析した。その結果、受動喫煙のある人はない人に比べて肺がんになるリスクが約1.3倍高く、国際的な解析結果と同様であった。そこで、ガイドライン「日本人のためのがん予防法」において、受動喫煙を「できるだけ避ける」から「避ける」へと修正し、努力目標から明確な目標として提示した。受動喫煙による健康被害を公平かつ効果的に防ぐため、世界49カ国(2014年現在)で実施されている公共の場での屋内全面禁煙の法制化など、たばこ規制枠組条約で推奨される受動喫煙防止策を日本でも実施することが必要だとした。

JTのコメントは、上記の発表に対してその日のうちに出され、受動喫煙と肺がんの関係が確実になったと結論づけるのは困難だとした。その根拠として、受動喫煙を受けない集団でも肺がんを発症すること。また、複数の独立した疫学研究を統合して解析する手法は選択する論文で結果が異なり、統計学的に有意ではない結果を統合していることを挙げた。JTとしては、たばこを吸わない方々に受動喫煙は迷惑なものとなりうるので、周囲への気配りや思いやりをお願いしていると結んだ。

このJTのコメントに対して、国立がん研究センターは以下のように反論した。

受動喫煙による肺がんリスクは疫学研究のみならず、たばこ煙の成分の化学分析、および動物実験などの生物学的メカニズムの分析でも科学的に立証され、たばこ規制枠組み条約などで世界共通の問題として対策が進んでいる。しかし、日本人を対象とした個々の疫学研究では統計学的に有意な関連が示されていなかったため、これまで「ほぼ確実」とされてきた。今回、日本人を対象としても国際的な結果と同様に「確実」といえるだけの科学的な結論を示すことができた。また、今回用いた複数論文からの選択手法は、統合して解析する国際的なガイドラインに基づいており、「選択する論文で結果が異なる」といった恣意的なものではない。この場合、個々の研究が有意であるかどうかではなく、複数の研究で結果の方向性が一致しているか、統計学的に有意かどうかが重要である。

受動喫煙による疾病リスクが示された以上、たばこの煙にさらされるのは「迷惑」や「気配り、思いやり」の問題ではなく、人々の健康に危害を与えていると社会全体が強く認識すべきだ。受動喫煙による健康被害を防ぐため、公共の場および職場での屋内全面禁煙の法制化など、たばこ規制枠組条約で推奨される受動喫煙防止策を実施することが必要だ、とまとめている。

2016年9月27日火曜日

乳癌の予後因子としての多重遺伝子診断

No.31掲載(2011年5月刊行)

浜松オンコロジーセンター長
渡辺 亨

 近年、遺伝子発現プロファイリングが発展し、乳癌においても遺伝子の発現パターンから4つの主要な分子のクラス分類がなされ、それぞれの再発リスクに基づいて治療方針が決定されているが、すべての患者がその治療法に適合するとは限らない。そこで、最近はこの遺伝子をさらに細かく測定・解析することで再発リスクをより正確に評価し、個々の患者に適合した治療法を選択することを目指し多重遺伝子診断の研究が進められ、実用化されつつある。

 多重遺伝子診断については、わが国において早期乳癌症例の予後予測因子として、また術後化学療法施行の判断の一助として期待されており、今後、さらにこの有効性が証明されれば、個々の患者にとって過不足ない的確な治療選択が可能となろう。・・・続きを読む

2016年6月23日木曜日

マイノリティのBRCA陽性乳がんサバイバーで予防的手術は少数

2016年6月22日 海外癌医療情報リファレンス

原文掲載日:2016年6月6日

乳がんおよび卵巣がんのリスクマネジメントにおける人種間での格差が判明

米国臨床腫瘍学会(ASCO)の見解

「本研究は、乳がんおよび卵巣がんにおける人種間のさまざまな格差に、われわれが取り組む必要性を大いに喚起するものです。乳がんや卵巣がんの予防的手術を行うかどうかは非常に個人的な問題でもありますが、人種にかかわらず、すべての女性が利益と不利益について医師と話し合うことが大切です」と、乳がんのASCO Expertで本日の記者会見の司会者であるPatricia Ganz医師は述べた。

BRCA遺伝子変異を有する乳がんサバイバーは、予防的手術を行うことで、今後乳がんや卵巣がんにかかるリスクが大幅に減少する。しかし、フロリダ州での地域住民をベースとした乳がんサバイバーに関する研究によると、こうした強く推奨されている手術を受ける黒人女性は、白人女性やヒスパニック系女性に比べかなり少ないとみられる。

本研究は、本日の記者会見で取り上げられ、2016年ASCO年次総会で発表される。「遺伝子検査から得られる情報に基づいて行動し、適切なフォローアップケアを受けることで、初めてがんのリスクを調べる遺伝子検査から利益を得られるのです」と、筆頭研究著者でフロリダ州タンパH. Lee Moffitt Cancer Center & Research Institute, Inc.社の臨床遺伝学専門のTuya Pal医師は述べている。「今回のデータでマイノリティのBRCA遺伝子変異保因者ではリスク軽減のための手術が少ないことが示されたことで、医師は特に黒人女性に対し、より精力的で的を絞ったフォローアップを行うようになると考えられます」。

BRCA遺伝子変異保因者のリスクマネジメント

BRCA遺伝子変異を有する女性が乳がんと診断されると、再び乳がんになる生涯リスクは最大50%で、卵巣がんのリスクは最大44%である。予防的両側乳房切除により再び乳がんにかかるリスクは著しく減少する。

同様に、卵巣および卵管の外科的除去(卵巣摘出術)により卵巣がんのリスクは90%減少する。卵巣がんを早期に発見する信頼性の高い検査方法がないため、変異保因者にとり予防的卵巣摘出術は卵巣がんによる死亡を減少させるための非常に重要な戦略である。

研究について

本研究はFlorida State Cancer Registryより浸潤性乳がんと診断された50歳以下の非ヒスパニック系白人(NHW)、黒人、ヒスパニック系の女性を対象とした。著者によると、多数のマイノリティの女性を含み、さまざまな医療施設で治療を受けた集団におけるBRCA遺伝子変異保因者のフォローアップケアを調査した研究は、今回が初めてとのことである。これまでの研究は、1カ所の研究施設か医療組織に限られたものであった。

参加者1,621人中、917人が乳がん診断後にBRCAの検査を受け、そのうち92人が遺伝子変異陽性であった。

重要な知見

研究からは、遺伝子検査を受けた割合は人種間で差があり、非ヒスパニック系白人の65%、ヒスパニック系女性の62%は検査を受けていたが、黒人女性では36%だけであることが明らかになった。臨床でBRCA遺伝子変異検査を受ける黒人女性の割合が低いことは、乳がんの後、予防的処置を行える機会を逃すこととなるため残念なことである。

BRCA変異陽性の女性92人においては、乳房切除術および卵巣摘出術を受けた割合も3つの人種群間で有意差が認められた。黒人女性で手術を受けた割合が最も低く、両側乳房切除術(68%)、卵巣摘出術(32%)であった。ヒスパニック系女性は非ヒスパニック系白人女性と比べて乳房切除術を受けた割合は低いが(85%対94%)、卵巣摘出術を受けた割合は高かった(85%対71%)。黒人と他の2群との有意差は、登録時の年齢、診断されてからの時間、収入、乳がんおよび卵巣がんの家族歴、保険の加入状況で調整後も認められた。

著者は、本研究に以下のような限界があったことを認めている。

各人種群においてBRCA変異女性の数が少なかった(非ヒスパニック系白人51人、黒人28人、ヒスパニック系12人)。

本研究に登録された黒人女性のうち4人は、まだ治療中であったため、この群の卵巣摘出術を受けた割合が低下した可能性もある。

乳がんの診断が女性にとり衝撃的なものであることを考慮すれば、卵巣がんのリスクマネジメントより乳がんの治療を優先することも考えられる。したがって、これらの女性が、がんのリスクマネジメントにおいてどのような選択をするのかを検討する追跡調査を長期間にわたり行うことが重要である。

「今回の結果により、がんケア全体に存在する、遺伝性がんの素因に関する格差への関心が高まることを期待しています。がんのリスクマネジメントについて遺伝性がんの女性が詳細な情報を得た上で決断できるよう、われわれが取組みをさらに促進させるためにも、まずは、こうした格差がなぜ生じるのか理解することが必要です」と、Dr.Pal氏は述べている。

次のステップ

本研究は2009年から2012年に乳がんと診断された女性が対象であった。米国の医療制度に影響を与えた最近の変化を反映するためにも、より最近診断を受けた患者を評価する追加の研究が必要である。最近の変化で特筆すべきは、BRCA遺伝子の特許が無効になったことと、DNAの塩基配列を決定する技術が飛躍的に進歩したことである。これにより検査費用が安くなり、より多くの人が検査を受けることを期待できる。

本研究はBankhead Coley Granting agency (IBG10-34199)およびアメリカがん協会 (RSG-11-268-01-CPPB)から資金提供を受けた。

2016年6月17日金曜日

これまでの見解を撤回!コーヒーがガン予防に繋がることをWHO(世界保健機関)が認める

Posted: 06/16/2016 IROIRO

世界保健機関(WHO)は、コーヒーに発がん性がないとするレポートを15日に発表。さらに海外メディアの取材に対して、コーヒーがある種のガンの予防に繋がることを認めた。

WHOはこれまでコーヒーの発ガン性を強く疑っていたが、その見解をひるがえしたことになる。

子宮ガンや肝臓ガンを予防

コーヒーがガン予防になるというのは、WHOの研究機関である「国際がん研究機関(IARC)」がこれまで行なってきた公汎な調査の結果だ。

IARCによれば、コンスタントに適当な量のコーヒーを飲み続けることは、子宮ガンや肝臓ガンなどの予防に繋がるとのこと。

ただ、コーヒーには心拍数を増やしたり血圧を上げる作用があるので、飲み過ぎには注意しなければいけない。

これまでの見解を撤回

WHOはこれまで、コーヒーは膀胱ガンの原因になるという見解を持っていた。また、他のガンの原因にも成りうると考えていた。

その根拠は過去の研究調査結果にある。いくつもの研究調査で、コーヒー摂取量が増えるとガンのリスクが高まるという結果が確かに出ている。

ところが、そういった研究調査では、被験者たちの喫煙や飲酒といった不健康な習慣が考慮されていなかったと最近分かったのだ。喫煙や飲酒を続けていれば、それだけでガンのリスクは高まるだろう。

最近の研究調査はコーヒーにプラス評価

近年、コーヒーが健康にプラスになるという調査結果が続々と出ている。

IRORIOでも、『コーヒー1日4杯で大腸がんの再発リスクが低下する』、『1日5杯飲むと乳がんのリスクが下がる』、『1日1杯飲むことで肝臓がんリスクが減る』、『コーヒーに肝機能を高める作用あり』といったコーヒーにプラスの研究調査結果をお伝えした。

こういった最新の研究結果も、WHOが見解を改めた理由であると伝えられている。

2016年4月19日火曜日

骨転移への放射線治療は「痛み」「不眠」のほか全体的なQOLを改善

学会トピック◎第75回日本医学放射線学会総会
骨転移への放射線治療は「痛み」「不眠」のほか全体的なQOLを改善
2016/4/19 満武里奈=日経メディカル

 骨転移患者に対する姑息的放射線治療は、痛みを和らげるだけでなく、全体的なQOLや不眠のスコアを改善することが分かった。埼玉医科大学総合医療センター放射線腫瘍科教授の高橋健夫氏が、4月14日から17日にかけて横浜市で開催された第75回日本医学放射線学会総会(大会長=北海道大学の玉木長良氏)で発表した。

2016年4月15日金曜日

朝型か夜型か……鍵を握るのは「絶食時間」

2016年4月5日

体内時計が食事時刻を覚えている

 さて、毎日決まった時刻にしか餌をもらえない環境でマウスを飼育すると、そのマウスは餌がもらえる時刻の数時間前から行動し始めるようになります。この行動は毎日正確に行われ、体内時計によって餌の時刻を察知する能力があるようです。この現象は古くから知られており、いわゆる「腹時計」が本当に存在しているのではと考えられてきました。また、このような環境で飼育したマウスの体内時計は、食事の時刻に合わせて昼と夜のリズムが変化します。自然環境に生きるマウスは夜行性で夜、餌を取りますが、明るい時間にだけ餌をもらう環境が続くと、明るくても行動するようになります。また、体温リズムやホルモンリズムも変化します。つまり、体内時計は食事時刻の変化に合わせて、時刻調節を行うのです。それは生きるうえで重要な餌の確保のためであり、体内に入ってくるだろう食事の消化・吸収・代謝の準備のためでもあります。

朝食は体内時計を早め、遅い夕食は時計を遅らせる

 上述の実験で、1日1回の食事を朝食(マウスが活動を開始する時)、または夕食(マウスが寝始める直前)に固定し、体内時計の時刻を比べてみました。すると毎日、朝食だけ食べているマウスの体内時計は、自然な状態よりも少し早い時刻に変化しました。一方、夕食だけを食べているマウスの体内時計は、約3時間と大きく遅れました。朝食には体内時計を前進させる効果、夕食には後退させる効果があることが分かります。

しかしこの結果を、私たち人間にそのまま当てはめることはできません。通常、私たちは1日3食が一般的です。その場合は、朝食の前進効果と、夕食の後退効果が差し引きされて、体内時計の時刻は大きく変化しません。またそもそも体内時計への刺激は、1日1食よりも1日3食だと弱くなります。さらに昼食だけを食べるマウスでの1日1食実験では、朝食、夕食と異なり体内時計は大きく変化しないことが分かっています。

 では1日3食のパターンを崩した例で考えてみましょう。実はヒトの食事と体内時計の関連を調べた実験はまだほとんどなく、ほぼすべてはマウスでの実験です。以下はマウスでの研究成果を基にした科学的な推察と考えてください。

 最近は若い人だけでなく、年配の人にも多いといわれる朝食抜き生活(1日2食)ではどうでしょうか。昼食と夕食の組み合わせは、体内時計の時刻後退効果しか見込めません。ここで思い出してほしいのは、連載第1回で紹介したように、ヒトの体内時計は24時間よりも少し長く、毎日少し早めることで24時間に調節しているということです。つまり、ただでさえ遅れがちな体内時計を、朝食を抜くことでさらに遅らせてしまうことになります。もちろん食事以外に光などでも調節されるので、どんどん遅れていくわけではありません。しかし、体内時計の夜型化の大きな要因となるのは事実でしょう。

長い絶食後の食事だけが体内時計を調節できる

 では1日3食生活でも、夕食が極端に遅い場合を考えてみましょう。朝食が7時、昼食が12時、夕食が22時の場合です。夕食は19時くらいが一般的だと思いますが、残業後に帰宅してからご飯を食べる場合、夕食が22時ということもあり得ると思います。私たちはマウスでこのような状況を再現し、体内時計の変化を調べてみました(実際には他にもいくつかの食生活パターンを試してみた中の1例です)。

 その結果分かったことは、1日2食または3食の生活スタイルでは、「一番長い絶食後の食事に体内時計調節効果が表れる」ということです。つまり普段は図のように朝食が一番直前の絶食時間が長い(夕食から12時間たっている)のですが、22時に夕食を食べるパターンだと、夕食が一番長く(夕食は昼食から10時間後、朝食は夕食から9時間後)なります。つまり通常は、体内時計調節効果を朝食がもっとも強く持っているのですが、夕食が遅すぎると朝食の体内時計調節効果が弱まってしまうということです。となると、「朝食で体内時計をリセットできなくなっても、夕食でリセットできるなら問題ないじゃないか」と思う人もいるでしょうね。そうではありません。前述の通り、元々、夕食は体内時計を遅らせてしまう方向に働く可能性がありますので、やはり朝食でリセットする方が望ましいと考えられています。

 また「遅い夕食の次の日、ただでさえ朝食を抜きたいのに、無理して食べても体内時計調節効果が弱いなら意味ないな」と思った人もいるかもしれません。大丈夫です、ベストではないですが簡単な解決策はあります。それは、昼食と遅い夕食の間に、間食を取ることです。これで絶食状態は無くなりますので、朝食が一番長い絶食後の食事になりますね。

 では、なぜ長い絶食後の食事のみが体内時計の調節に効果的なのか? そこには血糖調節ホルモンである「インスリン」が深く関わっています。

×   ×   ×

 体内時計と食の関係を探る研究は「時間栄養学」と呼ばれ、最近世界中で盛んに取り組まれています。

抗癌剤をやめれば、QOL(生活の質)は上がるのか? これからのホスピスの役割とは。

Dr. Takuya の 心の映像 (image)
緩和ケア医が,普段考えること、感動すること 心の映像を残してみます。 引用、改変、参照 全てご自由に。 Since December 24th, 200

2016年4月15日 (金)
抗癌剤をやめれば、QOL(生活の質)は上がるのか? これからのホスピスの役割とは。

2016年4月14日木曜日

10年相対生存率(2016年3月20日号)
5年後に再発するがん、しないがん
全がん協10年相対生存率が公表される
2016/4/14 日経メディカル

 国立がん研究センターの研究開発費に基づく研究班「わが国におけるがん登録の整備に関する研究(班長:東尚弘氏)は、がん医療の中核的医療機関で組織する「全国がん(成人病)センター協議会」(会長:堀田知光氏、以下「全がん協」)の協力を得て、加盟施設における“部位別10年相対生存率”を初めて集計し、公開した(http://www.zengankyo.ncc.go.jp/etc/)。部位別の10年相対生存率は各がんの生物学的特性を反映しており、治療選択や患者への生活指導にも影響しそうだ。

「乳がんはいつまでも再発するがん」

10年生存率の違いに加え、5年生存率と10年生存率の違いにもそのがんの特徴が示されると同研究班は指摘する。例えば胃がん、大腸がんなどの消化器がんでは5年を超えると生存率は大きく低下しない。つまり、巷間いわれているように5年を治癒の目安とすることができるがんだ。しかし乳がんでは5年を経過しても再発し、死亡する患者が多い。研究班の三上春夫氏(千葉県がんセンター・がん予防センター疫学研究部)は、乳がんを「いつまでも再発するがん」と呼ぶ。

待たれる乳がんの休眠機序の解明

 乳がんの治療がほかの消化器がんに比べ長期にわたることは臨床家の間ではよく知られている。2012年には抗がん薬のタモキシフェンの補助療法を5年から10年に延長することで乳がん死のリスクを有意に低下させることができるとしたランダム化比較試験「ATLAS(Adjuvant Tamoxifen:Longer Against Shorter)」の結果が報告され、注目された。

このように再発リスクが長期にわたって続くメカニズムとして、乳がん細胞が骨髄中に入り、そこで長期間の休眠に入るというモデルが提唱されている。休眠中の乳がん細胞が何らかのシグナルを受けて覚醒し、再発転移を起こすというものだ。こうした休眠と覚醒のメカニズムを知ることは乳がん治療に大きな革新となると考えられる。

2014年には国立がん研究センター研究所分子細胞治療研究分野主任分野長の落谷孝広氏らが、乳がんの休眠にエクソソームと特定のマイクロRNAが関与していることを世界に先駆け報告している。

 がん治療の成績には初回治療が占めるウエートは高い。堀田氏は、「今回公表されたデータは10年前の医療のデータを示している。当然、現在の治療成績が高い。この点を、数値を見る市民の皆さんにも強調してほしい」と10年生存率の公開を機に聞いた記者会見で報道陣に注文を付けた。2002年は固形がん治療に分子標的治療薬はなく、確立した薬剤のレジメンがなかった固形がんも多かった。

2016年4月6日水曜日

末期がん、在宅でも寿命ほぼ同じ 入院と比較、筑波大

2016年4月6日

がんの最期を自宅で迎える場合と病院で迎える場合とでは、生存期間にほとんど違いがないか、むしろ自宅の方がやや長いとする調査結果を、筑波大と神戸大のチームが6日までにまとめた。末期のがん患者が在宅医療を選んでも寿命が縮む可能性は低いことを示す結果となった。

調査は2012年9月~14年4月、専門的な緩和ケアを行う国内の58医療機関で、在宅や病棟で診療を受けた20歳以上の進行がんの患者計2069人を対象に分析した。


2016年4月5日火曜日

おくすり手帳、薬局に持参しないと医療費が高くなる 2016年4月から

2016年03月25日

4月から公的医療の診療報酬が改定され、薬局に薬を買いにいく時に「おくすり手帳」を持参しないと、薬局に支払う金額が高くなる可能性がある。おくすり手帳とは何か?具体的にはどれくらい変わるのかをまとめた。

■おくすり手帳とは?

おくすり手帳とは、いつ、どこで、どんな薬を処方してもらったかを記録しておく手帳のこと。薬局で無料でもらえる。医師や薬剤師にこの手帳を見せて服薬状況を確認してもらうことで、薬の飲み合わせや、重複投与を防ぐ目的がある。余計な薬を減らす事にもなり、医療費の適正化にもつながる側面もあった。

しかし、この無料の手帳に「記録する」にはお金がかかり、現在は管理指導料として410円が診療報酬として加算され、患者は1〜3割を窓口で支払っている。

一方、お薬手帳がない場合の管理指導料は340円と、手帳を持っている場合よりも患者が支払う金額は安くなり、手帳を持たない人も出ていた。

■2016年4月からはおくすり手帳の有無で医療費が変わる

これでは、おくすり手帳で服薬管理をしたい国の意向と矛盾が生じる。このため2016年度の報酬改定では、手帳を持っている患者に対し、経済的なメリットを示した。具体的には、4月からの管理指導料を、おくすり手帳を持参した場合は380円に引き下げ、おくすり手帳がない場合は500円に引き上げたのだ。差額は120円。手帳の有無によって、1割負担であれば10円、3割負担であれば40円の差が生じることになる(四捨五入で10円単位で計算)。

厚生労働の担当者は3月4日の説明会で、「おくすり手帳を忘れ、その場で再発行をした場合にも50点(500円)としている」と述べた。ただし、既に手帳を持っている場合の運用については、「別の方法を別途紹介したい」などと話した。

■手帳を持っていても安くならない場合もある

注意したいのは、管理指導料が減額されるのは6カ月以内に同じ薬局で調剤を受けた場合のみという点。6カ月以上来局していない場合や、別の薬局で薬を処方された時の管理指導料は、380円ではなく500円となる。

また、大病院の前などにある、いわゆる大型門前薬局と呼ばれる薬局などでは、管理指導料は500円となる。複数の場所での薬の処方を、門前薬局ではなく地域の「かかりつけ薬局」に取りまとめることで、患者の普段の健康相談などの窓口を担ってもらったり、医療費を抑制したりする狙いがある。

なお、スマホアプリなどを使った「電子版」のおくすり手帳に記録をした場合、これまでは診療報酬には加算されなかった。しかし、4月からは紙の手帳と同等の機能を有する電子版おくすり手帳の管理指導料は、紙の場合と同様に扱われることになる。

2016年3月31日木曜日

子宮頸がんワクチン副作用で国提訴へ 

2016年3月30日 20時33分

 子宮頸がんワクチンの接種を受け、全身の痛みやしびれなど副作用を訴える女性たちが、国と製薬企業2社に損害賠償を求める集団訴訟を7月までに起こすことを決めた。このうち17~21歳の女性4人と弁護団が30日、東京都内で記者会見し「国が被害を拡大させた薬害問題だ」と主張した。

 ワクチンは国内で2009年12月に販売開始。厚生労働省によると、14年11月までに小中高生ら約338万人が接種を受け、2584人が副作用を訴えた。

 弁護団によると、この問題での提訴は初。4人を含め12人が既に提訴を決めており、弁護団はさらに参加を呼び掛け、4地裁で訴訟を起こす。

2016年3月29日火曜日

蜜入りリンゴ 甘さの秘密は香りにあり

2016/3/29

蜜入りのリンゴといえば、その蜜が甘くおいしいと考えられてきたが、その考えを覆す結果が発表された。農研機構・中央農業総合研究センターの17日付発表によると、蜜入りのリンゴと蜜のないリンゴとでは、糖の量や甘味度の差はほとんどなく、おいしく感じる理由はその香りにあるという。

同機構は、小川香料及び、青森県産業技術センターりんご研究所と共同で、蜜入りリンゴに香気成分として多く含まれる「エチルエステル類」が、リンゴの風味をよくするための重要な成分であることを明らかにした。

エチルエステル類とは、エタノールと脂肪酸が縮合(エステル結合)して生成する化合物のことで、果物や花の甘い香りのもとになっていることが知られている。

糖度に差のない蜜入りリンゴと蜜無しリンゴで官能評価をすると、蜜入りのほうが香りが強く、香りを感じないように鼻をつまんだ状態で試食すると、味の強さに差はなかったという

欧米では、貯蔵性が低いため生理障害(栄養分の過不足による障害)として扱われるという蜜入りリンゴ。アジアや国内では、「甘くておいしい」と人気があるが、糖度などを調べても蜜のないリンゴと差がないケースが多く、人気の理由は謎とされていた。これまで果物の「おいしさ」は糖含量や糖度が指標とされてきたが、この研究によって香りの重要性が明らかになり、今後、香りに着目したおいしさの指標や新品種の改良、貯蔵技術の向上に役立つことが期待される。

この結果は、15日付け「日本食品科学工学会誌」に掲載された。

2016年3月26日土曜日

ロキソニンに「重大な副作用」 実際のリスクは? 厚労省に聞いた

BuzzFeed Japan 3月24日(木)

解熱鎮痛剤として広く使われている「ロキソニン」の使用上の注意に、「重大な副作用」として小腸・大腸の閉塞・狭窄などが追記されることになったというニュースが、ネットで話題になっている。

このニュースを見た人の中には、「ロキソニン」という薬に重大なリスクが見つかったのだと受け止めている人もいる。

だが、厚生労働省医薬・生活衛生局安全対策課の担当者は、BuzzFeed Newsの取材に対し「ただちに使うのをやめてというような、緊急性の高い話ではない」と話す。

厚労省の通知によると、小腸・大腸の狭窄・閉塞の重篤な症状は、ロキソニンの副作用として「まれに」起こることがある。そのため、もし吐き気・嘔吐、腹痛、腹部膨満等の症状があらわれたら「直ちに医師の診察を受ける」べきだということだ。

専門用語で誤解生じた?

それでは、「重大な副作用」というのは、いったい何だったのか。

今回の件は、専門用語で書かれたニュースが一般に広まったことで、誤解が生じたという側面があるようだ。

同課の担当者によると、「重大な副作用」は、医薬品分野の専門用語。「もし症状が起こったら、健康に重大な影響がある副作用」という意味で、症状が軽い副作用と区別するために使う言葉だという。

つまり、「重大な副作用」は、副作用が起きる確率が高いことを示す言葉ではないわけだ。

そもそも、「重大な副作用」という言葉が登場するのは、一般用ではなく医療用の薬に添付される文書の中で、読むのは医療関係者だという。

「副作用理解して使って」

今回、ロキソニンについての注意書きが改訂されることになったきっかけは、すべての医薬品について行っている安全調査で事例報告が集まってきたからだという。報告数は直近3年間で6例だったそうだ。

同課の担当者は次のように話していた。

「ロキソニンは長い歴史のある薬です。今回の副作用は、これだけ時間がかかってようやく見つかったものです」

「医療用のロキソニンの文書には10以上の『重大な副作用』が書いてあります。今回は、気をつけていただくべき副作用の種類が少し増えたということです」

「薬には副作用があります。そのことを理解した上で使ってください」

2016年3月24日木曜日

白血球比率の高値が早期乳がん再発の高リスクと関連―ESMO Openプレスリリース/欧州臨床腫瘍学会(ESMO)

2016年3月24日 (原文掲載日: 2016年3月8日)

2種の免疫細胞の比率が高いことが初期乳がん診断後の再発高リスクと関連していることが、国際女性デー(3月8日)の前日にESMO Openオンライン版に発表された。この種の研究では初めての発見となる。

前向き試験によってこの関連性が確認されれば、本結果は将来の治療やモニタリングの戦略指針となり得ると言われている。

膨大なエビデンスにより、数種のがんの発生と進行には炎症が関与していることが示されており、リンパ球に対する好中球の比率(好中球数/リンパ球数、NLRと略す)が重要であることが示唆されている。

好中球とリンパ球は、がんを含む有害な侵入物に対する免疫応答の一種として動員される白血球である。

複数のがん種での研究で、NLRが高いと生存予後が不良であることが報告されている。しかし、乳がん女性を対象とした研究で決定的な結論が得られたものはほとんどない-これらの研究では主にアジア系民族を対象にしており、他民族よりも一般的に生存期間が長いことがその理由でないかと言われている。

研究チームでは、NLRが無病生存期間と関連しているか調べるため、300人(9人を除き35歳超)の白人女性の健康状態を、診断から最大15年間(1999~2015年)追跡調査した。

対象となった女性はすべてステージIまたはIIで定義される初期乳がんであり、他部位への転移は認められなかった。

診断後、治療を開始する前の採血で血球数を測定した結果、対象患者のうち134人がNLR低値(1.97以下)、166人がNLR高値(1.97超)であった。

15年後、対象患者の37人(12%)で他部位にがんの再発が認められた。

NLR低値の患者ではその後の健康診断で健康状態が良好であり、1、3、6、9、12、15年で再発が認められなかった患者の割合はそれぞれ100%、98.9%、91.7%、82.7%、82.7%および82.7%であった。

これは、NLR高値の患者の同じ評価時期の無再発割合それぞれ99.4%、94.3%、84.5%、69.2%、66%および51.4%と比較して高い。

研究チームでは、大きな影響を及ぼす可能性がある他の要因を考慮するためさらに解析を進めた。その結果、閉経前、腋窩リンパ節へのがん転移(N1)およびNLR高値が独立して再発のリスクと関連していることが見出された

本結果をさらに裏付けるために、研究チームでは傾向スコアマッチング解析(効果を受ける予測因子を考慮して介入効果の推定を試みる統計学的なマッチング手法)を行った。この手法を患者226人(NLR高値とNLR低値半々)に適用した結果、閉経前、腋窩リンパ節へのがん転移あり(N1)およびNLR高値がそれぞれ独立して予後不良と関連していることが確認された。

本研究は観察研究であるため、因果関係に関して確固たる結論を導き出すことはできず、後ろ向きの研究でもあった。しかし、研究チームによると、統計学的マッチングにより得られた関連性が強固となり、さらにこの関連性は他のがん種でも認められているという。

「がん患者のNLRと転帰との関係は一見単純に見えますが、おそらく複雑で多因子が関与するプロセスであり、そのほとんどがまだ解明されていません」と研究者らは述べる。

簡単に言えば、NLR高値は、血管新生の促進(新しい血管の形成)、がんの増殖および転移(拡がり)における全身性炎症の役割を表している可能性があります」と研究者らは言う。

ESMO Open誌編集長のChristoph Zielinski教授は次のようにコメントしている。「本結果が初期乳がん患者を支援する新たな方法の可能性を示していることがわかり感動的です。この分野で活躍している研究者が世界中でこの発見の確認を目的とした共同研究を築いていくことを願っています」。

Notes for editors:
研究: Neutrophil to lymphocyte ratio (NLR) for prediction of distant metastasis-free survival (DFMS) in early stage breast cancer: a propensity score-matched analysis(リンパ球に対する好中球の比率(NLR)による初期乳がんの無遠隔転移生存期間(DFMS)の予測:傾向スコアマッチング解析)
doi 10.1136/esmoopen-2016-000038
Journal: ESMO Open

http://esmoopen.bmj.com/lookup/doi/10.1136/esmoopen-2016-000038

2016年3月7日月曜日

こぶし


乳がん、広がる一括治療…診療科の垣根越えチーム

2016年3月6日

 全国の医療機関で、乳がんの診断、治療から乳房再建までを一括して行う「ブレストセンター」を設置する動きが広がってきた。診療科の垣根を越えて医師・看護師がチームを組み、治療効果を上げるとともに患者の負担も軽くするのが狙いだ。乳がん患者の増加で、2013年に乳房再建の保険適用の範囲が広がったことが背景にあるという。

手術、同じ日に

 大阪府四條畷市の女性(50)は14年夏ごろ、近くの病院で乳がんの診断を受け、右乳房の全摘を勧められた。「ショックだった。女性として終わった感じがした」

 しかし、同年11月にブレストセンターを新設した関西医大滝井病院(大阪府守口市)を紹介され、乳腺外科で乳房を摘出し、続いて形成外科で自らの腹の脂肪を血管ごと胸に移植する自家再建術を受けた。手術は16時間に及んだが、女性は「手術後、ほとんど元のままの胸を見た時は、本当にうれしかった」と話す。

 同病院は両科のほか、専門知識を持つ看護師らが協力。再建後は形が固定するまで専門の下着が必要で、「下着外来」も設けて患者に合った下着も作っている。

 センター設置後、2月末までに261件の乳がん手術を実施、このうち約6割が再建術を伴う。以前は診療科の縦割りで、摘出と再建の手術を同じ日にするのは難しかった。形成外科の田中義人医師は「きれいな乳房再建には摘出段階から連携が必要だ」という。

全国10か所以上

 日本の先駆けは、05年に開設した聖路加国際病院(東京都)。現在、昭和大病院のブレストセンター長で、日本乳癌がん学会理事長の中村清吾氏が初代センター長を務めた。1990年代後半、米国で複数の専門医が一緒に乳がん患者を診療する様子を見て、センターを計画。現在は、8診療科約30人の医師がチームを組み、年間約900件の手術を行う。患者らの心をケアする精神腫瘍科もある。

 読売新聞の調べでは、北海道や東京都、神奈川県、大阪府、九州などの医療機関に少なくとも10か所以上のブレストセンターが設置されている。14年4月にセンターを開設した、札幌医大病院(札幌市)は15年の乳がんの手術数は128件で、06年の66件と比べほぼ倍増した。

 中村理事長は「昔に比べ、今は様々な治療、再建法ができた。患者個々に適した医療がどこで効率的に受けられるか、学会として患者目線で分かるようにしていきたい」と話す。

2016年3月6日日曜日

がん治療、最新放射線システム実用化へ 国立がん研究センター

2016年3月5日

国立がん研究センターは1日、がんなどの腫瘍細胞を治療する際、周辺への影響や
人体への副作用の少ない放射線治療システムが実用化段階に入ったと発表した。早ければ2016年度中に臨床試験を開始し、実用化へのステップを進めていく。

同システムはホウ素中性子捕捉療法(BNCT)と呼ばれる。薬剤(ホウ素製剤)を腫瘍細胞に集積させ放射線の中性子を照射することで、腫瘍細胞に選択的に作用する画期的な放射線治療法だ。一度の治療で済むことや副作用が少ないことで世界的に注目されている技術である。

今回のシステムは中性子の生成のためにリチウムを使用しているが、人体への悪影響が極力少ないことが特徴。一方で、融点が低いためシステム開発難易度が高く、世界的にも実用化ができていなかった。

同センターが導入したBNCTシステムは、CICS(東京都江東区)が開発したリチウムターゲットシステムに、日立製作所の子会社AccSys Technology(米カリフォルニア州)の直線加速器を用いている。

2016年2月25日木曜日

抗癌剤による嘔吐はほぼ制御可能に 残る課題は主観的な症状である悪心への対処

リポート◎日本癌治療学会のガイドラインが現場に浸透
抗癌剤による嘔吐はほぼ制御可能に
残る課題は主観的な症状である悪心への対処
2016/2/25

抗癌剤治療中の患者が洗面台に向かって嘔吐する――こんな光景は制吐療法の進歩で過去のものとなった。残るは主観的な部分が大きい悪心への対処。患者の訴えをいかに評価できるかが鍵になる。

「抗癌剤による治療では、その投与を完遂できるようにするための支持療法も重要だ」と話す埼玉医大国際医療センターの佐伯俊昭氏。

 抗癌剤を投与されている患者の「つらい副作用」の象徴でもあった悪心・嘔吐に対して、日本癌治療学会が「制吐薬適正使用ガイドライン」を公表したのは2010年のこと。その作成当初より、医療現場での利用状況や制吐効果を評価し改訂版に反映させることが計画されていた。

 そして2年後に全国のがん診療連携拠点病院における3807人の患者について前向き調査を行った結果では、72%が悪心・嘔吐のスクリーニングを受けていた。このうち高度催吐性リスクの化学療法が施行された患者の83%にガイドラインが推奨する予防的制吐治療が行われ、その84%に嘔吐が認められなかった。中度催吐性リスクのレジメンでは、患者の91%に推奨する予防的制吐治療が行われ、その84%に嘔吐が認められなかった。

 また医療を提供する側、日本緩和医療学会、日本癌治療学会、日本造血細胞移植学会、日本放射線腫瘍学会、日本臨床腫瘍学会会員の医師、看護師、薬剤師を対象にしたアンケートでは、94%が日常診療でガイドラインを重視していると回答し、90%が有用であると回答していた。

 欧州でのガイドライン遵守率が30%程度という報告(Annals of Oncology 2012)もある中で、日本における抗癌剤制吐療法のレベルの高さを裏付ける数字だ。

 制吐薬適正使用ガイドライン初版出版委員会委員長で改訂ワーキンググループ委員長でもある埼玉医科大学国際医療センター包括的がんセンター長の佐伯俊昭氏は、「嘔吐については良好にコントロールできていることが分かった。しかしまだ悪心が残っている。悪心の客観的評価は難しいので、後回しになっていた。真のユーザーである患者からの情報をいかに拾い上げていくかがこれからの鍵になる」と話す。

 実際、2015年10月に発行されたガイドラインの第2版では、「悪心・嘔吐の適切な評価はどのように行うか」というクリニカルクエスチョンが新設された。そこでは、「適切な悪心・嘔吐の評価においては、医療者と患者の症状の認識は異なるという報告を踏まえ、医療者による客観的評価とともに患者の主観的評価を含めることが必要である」と、現状に対して記述されている。

read more: http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/report/201602/545906.html

2016年2月13日土曜日

欧米型の食事に含まれる砂糖は、乳がんの増殖および転移リスクを高める/MDアンダーソンがんセンター

マウスを用いたMDアンダーソンの研究により、砂糖の炎症経路への悪影響が指摘される
MDアンダーソンがんセンター ニュースリリース 2015年12月31日

典型的な欧米型の食事に多く含まれる砂糖が、乳がんおよび肺への転移のリスクを高める可能性があることが、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターの研究によって示された。

この研究結果はCancer Research誌電子版1月1日号で公表され、食品中の砂糖が12-LOX(12-リポキシゲナーゼ)と呼ばれる酵素のシグナル伝達経路に影響をおよぼすことが示された。

「欧米型の食事と同程度のショ糖を摂取したマウスでは、砂糖を含まないでんぷん食を摂取したマウスと比べ、腫瘍の増殖および転移が促進されることを、われわれは発見しました」と、緩和・リハビリテーション・統合医療部門助教、Peiying Yang博士は述べた。「これは、12-LOXとそれに関連する12-HETEと呼ばれる脂肪酸の発現増加が原因の一つでした」。

これまでの疫学研究でも、食品中の砂糖が乳がんの増殖に影響を及ぼすことが示されており、それには炎症が何らかの役割をはたしているのではないかと考えられていた。

「今回の研究では、複数のマウスモデルで、乳腺腫瘍の増殖に対する食品中の砂糖の影響について調査し、またそれに関連すると考えられるいくつかのメカニズムについても調査しました」と、共著者で緩和・リハビリテーション・統合医療部門教授の Lorenzo Cohen博士は述べた。「私たちの食生活のどこにでもある砂糖や異性化糖(高フルクトースコーンシロップ)には果糖が含まれていますが、特にその果糖が乳房腫瘍の肺転移促進や、乳房腫瘍内での12-HETE産生促進の原因となることをわれわれは見出しました」。

Cohen博士は、本研究データは食品中の砂糖が、乳がんの増殖や転移のリスクを高める12-LOXシグナル伝達を誘導することを示唆していると付け加えた。

乳がんのリスク因子を同定することは、公衆衛生上の優先事項であると著者は述べている。米国における1人当たりの砂糖の摂取量が年間100ポンド超に上昇していること、砂糖入り飲料の摂取の増加が、世界的な肥満、心疾患およびがん増加の重要な寄与因子であると同定されていることを考えると、適度な砂糖の摂取にとどめることが重要であると、研究者らは言明している。

「過去の研究では、がんの増殖における砂糖、特にブドウ糖の関与およびエネルギー代謝経路について検討されてきました」と、Yang博士は述べる。「しかしながら、炎症カスケードについては、本研究において砂糖によって駆動された発がん経路とは別の経路である可能性があるため、さらなる研究が必要です」。

これまでの研究では、乳がんの増殖に対する砂糖摂取の直接的な影響について、乳がんの動物モデルを用いて調査したもの、あるいは特異的なメカニズムについて検討したものはない、とYang博士は付け加えた。

MDアンダーソンの研究チームは、マウスを4種類の食事群に無作為に割り付け、それぞれに4種類の食事のうちの1種類を与えるという研究を行った。6カ月齢時点で、でんぷん対照食群のマウスの30%に測定可能な腫瘍が認められたのに対し、ショ糖を多く含む食事群のマウスでは、50~58%に乳腺腫瘍の増殖が認められた。また、本研究では、ショ糖または果糖を多く含む食事群のマウスの方が、でんぷん食の対照群マウスよりも、肺転移の数が有意に多かったことも示された。

「本研究によって、食品中のショ糖または果糖が、乳房腫瘍細胞において12-LOXと12-HETEの産生を誘導することがin vivoで示唆されました」と、Cohen博士は述べた。「これは、砂糖によって腫瘍の増殖が促進されることと関連する、何らかのシグナル伝達経路がマウスに存在することを示唆しています。しかしながら、食品中のショ糖と果糖がどのように12-HETEを誘導するのか、またそれが直接的あるいは間接的に影響を及ぼすのかはまだわかっていません」。

本研究チームは、食品中のショ糖または果糖が、特に12-LOX経路を通じて乳房腫瘍の増殖と転移に影響を及ぼすメカニズムについて、さらなる調査が必要であると確信している。

MDアンダーソンの研究チームメンバーは以下のとおりである。
Yan Jiang, Yong Pan, Patrea Rhea, and Lin Tan, all of Palliative, Rehabilitation and Integrative Medicine; Mihai Gagea, D.V.M., Ph.D., Veterinary Medicine & Surgery; and Susan Fischer, Epigenetics & Molecular Carcinogenesis.

本研究は、米国国立衛生研究所(P30CA0166672)、H. Leighton Steward 夫妻、EOG Resources, Inc.から資金提供を受けた。

2016年2月11日木曜日

よく使う鎮痛薬、約半数の医師が「ロキソニン」

第2位は僅差でアセトアミノフェン、第3位はセレコキシブ
2016/2/11

日経メディカル Onlineの医師会員を対象に、「鎮痛の目的で使用する非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)およびアセトアミノフェンの経口薬」のうち最も処方頻度の高いものを聞いたところ、約半数の医師がロキソプロフェンナトリウム水和物(商品名ロキソニン他)を挙げた。第2位のアセトアミノフェン(カロナール他)は39.8%に関しては、ロキソニンに迫る勢いだが、第3位のセレコキシブ(セレコックス、7.0%)以下を選んだ医師かなり少なかった。

2016年2月10日水曜日

4月から「電子処方箋」が解禁へ!マイナンバーの活用も検討

2016年02月10日 11時30分

「電子処方箋」の解禁が近づいている。

2020年以降に統一システムへ?

日本経済新聞は、厚生労働省が4月から「処方箋の電子化」を認めると報じた。

まずは希望する都道府県や市町村でスタートし、2020年度以降には全国に広げて統一システムにすることを検討するという。

紙の処方箋が不要に

現在は、医師が交付した処方箋を患者が薬局に持参。薬剤師は処方箋に従って調剤した上で、患者の氏名や薬名、調剤量などを記録して3年間保存する必要がある。

処方箋が電子化されれば、医者と薬局が専用サーバーでデータをやりとりできるようになるので紙の処方箋は不要に。

当面は、識別番号が書かれた「引換証」を患者が医師から受け取って薬局に提出しなければならないが、将来的にはマイナンバーカードを提示するだけで薬を受け取れるような仕組みが検討されている。

ネット上の反応はさまざま

処方箋の電子化がついに解禁されるという報道を受けて、ネット上には反響が続々。


賞賛する声が多いが、マイナンバーとの紐づけを懸念する声もみられた。

日本医師会は“医療ID”が必要と主張

医療分野でのマイナンバー利用については、医療関係者からも不安の声があがっている。

日本医師会は昨年12月、医療情報連携の充実は地域医療や医師不足などの有効な解決方法であるとしながらも、次のように指摘。

個人番号を医療の現場で利用するべきではない

漏えいなどを確実に阻止することは難しいことや、一生変更できない番号では漏洩した場合に取り返しがつかなくなるとして、マイナンバーとは異なる「医療ID」が必要だと訴えた。

日本薬剤師会は負担増を懸念

日本薬剤師会は2013年、処方箋の電子化には大きなメリットがあると述べた上で、次のようにコメント。

効率化を目指すべき電子化に、効果を遥かに上回るコストを投入することとなっては本末転倒である

処方箋の電子化は処方情報の電子化に比べて多くのコストと手間がかかることも事実だとして、過度な負担が新たに発生しない視点が重要と訴えた。

処方箋の電子化にかかる費用は、専用サーバーの導入費用は厚労省負担だが、運営費用は医療機関や薬局が負担する見通しとなっている。

2016年2月5日金曜日

朝食抜き 脳卒中リスク高まる がんセンターなど確認

毎日新聞2016年2月5日

 朝食を抜く人ほど脳卒中を発症するリスクが高まるとの研究結果を、国立がん研究センターと大阪大の研究チームが4日、発表した。朝食を欠くと朝の血圧の上昇が大きくなるためと考えられるという。朝食を食べないと肥満などにつながることは指摘されていたが、脳卒中リスクが高まることが確認されたのは初めてという。

 チームは、1995年と98年に生活習慣に関するアンケートを実施し、回答した全国8県の45〜74歳の男女約8万人を、1週間の朝食を取る回数で4群に分けた。2010年まで追跡し、脳卒中(脳出血、脳梗塞<こうそく>など)や虚血性心疾患の発症との関連を調べた。

 この結果、朝食を取らない、または週に1、2回しか食べない群では、毎日食べる群に比べて、脳卒中全体の発症が1.18倍高くなり、このうち脳出血は1.36倍高かった。脳梗塞やくも膜下出血、虚血性心疾患は関連性は見られなかった。

 脳出血の原因の一つは高血圧だが、チームによると、朝目覚める時、血圧は上昇するが、朝食を取らないと空腹感などのストレスからさらに上昇するとの過去の研究があるという。朝食を欠くと、肥満や糖尿病のリスクを上昇させるとの研究結果もある。

 大阪大の磯博康教授(公衆衛生学)は「子どもが朝食をとらないと、集中力を欠いて成績に影響するというデータはあるが、大人も生活習慣病の予防のために毎日朝食をとった方がよいだろう」と話す。

2016年1月28日木曜日

医師が健康のために摂取している食品は?

医師2561人に聞きました
医師が健康のために摂取している食品は?
2016/1/28


医師は、医療の専門家であるとともに、健康に関しても豊富な知識をもった「健康のプロ」と言える。その医師たちは、自らの健康のために、どのようなことに気をつけているのだろうか。今回は、医師の「食生活」の実態に迫ってみた。

 日経BPメディカル研究所が、日経メディカルOnlineの医師会員を対象に調査を行ったところ、医師2561人から回答があり、そのうちの78.8%が、「日々の食事に気をつけるようにしている」と回答した(図1)。具体的に医師が食生活上、注意しているのは、「栄養のバランスの良い食事」(64.3%)、「規則正しく食べる」(46.7%)、「腹八分目で暴飲暴食をしない」(40.5%)、「塩分を摂り過ぎない」(39.5%)などだった。
図1 「日々の食事にどのくらい気をつけていますか」(n=2561)
 医師が積極的に摂るよう心がけている食材について聞いたところ、最も回答が多かったのは「豆腐」(61.2%)で、これに次いで「コーヒー」(60.6%)、「青魚」(59.9%)、「納豆」(53.9%)、「ヨーグルト」(50.4%)などが挙がった(図2)。
図2 「日々の食事で健康維持のために積極的に摂るよう心がけているものは何ですか」(n=2561 )
また「最近、注目している栄養成分や食品」について聞いたところ、最も多くの医師が注目していると回答したのは「ヨーグルト」。こちらも「コーヒー」が第2位で、以下、「日本茶」「納豆」「オメガ3脂肪酸」が続いた(図3)。
図3 「最近注目している栄養成分、食品は何ですか」(n=2561)
これらの健康食材について、医師はどのような効果を期待しているのだろうか。注目する理由について自由記述形式で記入してもらったところ、「コーヒー」については、大腸癌や肝臓癌をはじめとする「癌の予防効果」を期待する声が最も多く、「カフェインの覚醒作用」「寿命を延ばす効果」などの記述も見られた。

 最も注目度の高かった「ヨーグルト」については、「腸内細菌叢の改善」や「整腸作用」の効果をあげる人が多く、「免疫力向上」「アレルギー改善」などの記述も見られた。

 「日本茶」については、「抗酸化作用」「抗菌作用」など、カテキンの効果を期待する声が目立った。「納豆」は発酵食品としての効果を挙げる人が多かったほか、「良質の蛋白源」であることを評価する声も見られた。「オメガ3脂肪酸」は、「動脈硬化予防」を上げる人がほとんどで、「心血管イベントの発症予防」や「認知症予防」などを上げる人もいた。

 なお、「健康のためになるべく摂取を控えているもの」について聞いたところ、糖質や砂糖を含む食品を上げた医師が約4割に上った。

2016年1月20日水曜日

がん10年生存率、58% 初の大規模集計、3万5千症例

2016年1月20日 00時06分

国立がん研究センター(東京)は19日、全国の16施設で1999~2002年にがんの診療を始めた約3万5千症例の分析で、10年後に患者が生存している割合を示す10年生存率は全体で58・2%だったと発表した。5年生存率のデータはこれまでにもあるが、10年生存率を大規模なデータで算出したのは初めてという。

 がん治癒の目安とされる5年生存率は63・1%で10年生存率と大きくは変わらないが、乳がんや肝臓がんは5年後以降も生存率の低下が目立った。また、ほぼ全てのがんで早期に発見し、治療を始めるほど良好な結果が得られることも確認できた。

(共同)

2016年1月19日火曜日

乳がん患者で化学療法の開始が遅れると全生存が低下―トリプルネガティブ乳がんで顕著に/MDアンダーソンがんセンター

社会人口学的要素が治療開始の遅延の原因となることがMDアンダーソンがんセンターの研究で明らかに
MDアンダーソンがんセンター ニュースリリース 2015年12月10日

術後化学療法の開始が手術後91日以降まで遅れた場合、乳がん患者の中でも特にトリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者で死亡リスクが著しく上昇する可能性のあることが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの新たな研究によって明らかにされた。さらに、社会経済的背景および医療保険の加入状況、民族性などの要因が治療開始の遅延に影響を与えていることも明らかになった。

JAMA Oncology誌で発表された今回の研究では、手術から91日以降に化学療法を開始した場合、5年以内に死亡する可能性が34%上昇した。TNBC患者にかぎれば53%の上昇だった。

術後化学療法は、初回手術後に行われる化学療法で、再発リスクと死亡リスクを低下させることで患者に利益をもたらすことがすでに明らかにされている。こう説明するのは、Health Services Research部門およびBreast Medical Oncology部門の助教であるMariana Chavez Mac Gregor医師である。しかし、術後化学療法の開始が遅くなると、わずかに残存した腫瘍が増殖したり、薬剤耐性を獲得したりするおそれがあるのだ。

現在、術後化学療法の最適な開始時期を定めたガイドラインはない。メディケア・メディケイド・サービスセンター(Centers for Medicare and Medicaid Services、CMS)は、一部の患者では、診断後120日以内の術後化学療法開始を医療品質基準としている。現在、MDアンダーソンがんセンターを含めた11のがん病院が、この基準に基づいて報告を行っている。

先行研究では、術後療法の開始が遅れると転帰が不良となる可能性が指摘されている。しかし、これまで、術後治療の最適な開始時期は明らかにされていない。現代の術後治療の最適な開始時期を明らかにし、また治療開始遅延をもたらす要因を特定するため、California Cancer Registryデータの分析が行われた。

今回の集団ベースの研究は、2005年1月1日から2010年12月31日の間にステージ1から3の浸潤性乳がんと診断され、術後化学療法を受けた患者24,823人のデータを検討した。本研究は、現在行われている治療レジメンを用いた化学療法において、治療開始が遅れた場合の影響を検討する研究としては、最も大規模な研究である。

「術後1カ月以内に化学療法を開始した患者と比べ、手術後30日から90日の間に化学療法を開始した患者では転帰が不良となった例は観察されなかった。しかし、手術後91日以降に化学療法を開始した場合は、全体の死亡リスクと乳がんによる死亡リスクが統計学的に有意に上昇した」と、今回の研究の筆頭著者であるChavez Mac Gregor医師は話す。

手術後91日以降に化学療法を開始した患者は、今回の分析対象者の9.8%を占めた。これらの患者は、手術後30日以内に化学療法を開始した患者と比べると、分析を行った時点では、5年以内に死亡する可能性が34%上昇し、乳がんによって死亡する可能性は27%上昇した。

分析を行ったデータには、乳がんのタイプに関する情報も含まれており、化学療法開始の遅延による影響が各タイプによって異なるか否かについても分析された。トリプルネガティブ患者では、治療開始が遅延(術後91日以降に開始)すると死亡リスクが53%上昇した。ホルモン受容体陽性患者あるいはHER2陽性患者では、治療開始遅延による有意な影響はみられなかった。

統括著者のSharon Giordano医師(Health Services Research部門長兼教授、Breast Medical Oncology部門教授)によれば、「今回の研究データによって、トリプルネガティブ乳がん患者の場合、適切な時期に化学療法を開始することが特に重要であると示された」という。

今回の研究では、医療の提供状況を改善すべき患者群を明らかにするため、研究者らは化学療法開始遅延に影響する因子の特定も試みた。ステージが進行した患者やトリプルネガティブ患者では、治療開始の遅延は比較的少なかったが、患者が高齢な場合や再建手術を行った場合、そして一部の社会人口学的要素に関連して治療開始の遅延がみられた。

「予想どおり、治療開始が遅い例の一部に社会人口学的要素が大きく影響していることが観察された。社会経済的背景(SES)が低い患者や民間医療保険に加入していない患者、ヒスパニック系やアフリカ系アメリカ人患者では、治療開始が遅くなる傾向が高かった」とChavez Mac Gregor医師は話す。

生存割合の悪化は、アフリカ系アメリカ人であること、社会経済的背景が低いこと、メディケアおよびメディケイドの対象者であることと関連がみられた。一方で、国立がん研究所指定のがんセンターで治療を受けている患者は、その他の施設で治療を受けている患者と比べ、死亡リスクが34%低下した。

「われわれは、治療を遅らせる要因を特定して対策を講じ、ゆくゆくは弱い立場にある人々に対する医療ケアの提供を改善する必要がある。たいていの臨床状況では、術後3カ月以内に化学療法を開始することは大いに可能だ」とChavez Mac Gregor医師は話す。

今回の研究結果は、化学療法開始までの所要日数を医療品質基準に含める意義を支持するものであり、さらに、治療は手術後90日以内に開始するべきであることが示唆されるとChavez Mac Gregor医師は説明した。

著者らは、今回の研究は後ろ向き研究であり、制約があるであろうことを認めたうえで、乳がん患者が術後化学療法を受ける場合、全患者が手術後90日以内あるいは診断後120日以内に治療を開始するべきであると結論づけた。

Chavez Mac Gregor医師は「化学療法は適切な時期に開始する必要がある。私は、患者が化学療法の開始の遅延を望む場合には、このデータを伝え、治療開始が遅くなった場合、治療効果が低下する可能性があることを伝えている。治療開始は、できるかぎり遅らせるべきではないのだ」と話した。