2014年11月20日木曜日

早期乳がんでも両乳房切除が米で急増―生存率には効果なし

2014 年 11 月 20 日 18:04 JST

120万人の患者を対象とした全米規模の最新調査で、片側の乳房に早期がんが見つかった段階で両乳房切除を選択した女性の数がこの10年間で急増したことが分かった。

米医学誌JAMAサージェリーに掲載された調査によると、この増加はかなり早期の非浸潤性乳がんが見つかった若い女性のあいだで特に著しいという。

他の調査では、両乳房切除によって平均的な再発リスクを持つ女性の生存率が高まることはないことが分かっているが、それでも両乳房切除を選択する女性が増えていると医師たちは指摘する。

ダナ・ファーバーがん研究所のがん専門医、アン・パートリッジ医師は「多くの女性は本当の危険性と利点を完全に理解していない状態で、恐怖と不安からこの決断を下している」と指摘する。「ほとんどの女性の場合、もう片方の乳房にも新たながんが見つかる可能性は実際にはかなり低い」。パートリッジ医師は今回の調査にはかかわっていない。

その一方で、がん性腫瘍とその周辺のわずかな組織だけを摘出する乳腺腫瘤切除――乳房温存手術としても知られている――はかつて増加傾向にあったが、現在は減少に転じている。1980年代以前には、たとえ早期の乳がんであっても、ほとんどの女性が乳房全体と皮膚、その下の胸筋を取り除く、徹底的な全摘手術を受けていた。さまざまな研究で、乳腺腫瘤切除でもその後に放射線治療を行えば、生存率は全摘手術と変わらないということが示されると、この方法が標準的な治療となった。

ジョンズ・ホプキンス大学医学部のマイケル・ゼニルマン外科教授は「今や振り子は逆方向に振られている」とし、「患者の選択によるところがかなり大きい」と指摘する。教授は今回の調査で付随論説を執筆した。

最新の調査では、バンダービルト大学の研究者たちが、1998年から2011年までの期間に正式認可を受けたがんセンターで早期乳がんの治療を受けた女性120万人の記録を分析した。これは同期間に米国内で同様の治療を受けた患者の約70%に相当する。その期間に、早期乳がんで片側だけの乳房切除を受けた女性の割合は34%から38%に増加した。また、両乳房切除を選択した女性の割合は2%から11%に急増している。


この研究には、乳がん再発のリスクを大幅に引き上げるBRCA遺伝子変異を持っていた女性が何人いたかというデータは含まれていない。女性たちの決断理由についても不明だ。だが調査によると、乳房再建手術を選択する女性の割合も、乳房切除を受けたすべての女性の12%から36%に急増しており、これが両乳房切除の増加傾向を後押ししている可能性があると研究者らは考えている。

連邦法は1998年以降、保険会社やメディケア(高齢者向け医療保険制度)、メディケイド(低所得者向け医療費補助制度)に対し、乳がん患者の乳房再建手術に保険を適用するよう義務付けている。

乳がんについての知識を広める活動をしている非営利団体「スーザン・G・コーメン・フォー・ザ・キュア」のヘルスケアエデュケーション部部長、スーザン・ブラウン氏は「昔と比べるとより多くの女性が乳房再建という選択肢のことを知るようになり、その技術も向上してきた」と指摘する。とはいえ、乳房再建には複数回にわたる長時間の手術、長い回復期間、生涯残る傷跡などを伴う場合があるということに気付いていない女性も多いという。

ミシガン大学のブレストケアセンターの責任者、リサ・ニューマン医師は「多くの女性はつらい診断や治療を繰り返すことになるかもしれないという可能性に恐怖心を抱いているだけなのだろう」と話す。ニューマン医師と同僚たちは、治療法に関する患者との個人面談だけではなく、グループでの相談会や教材などでも、両乳房切除を受けることで生存率が高まることはないと強調しているという。

ダナ・ファーバーがん研究所のパートリッジ医師は、患者の決断に正しいも間違っているもないが、手術の危険性や利点を十分に知っておくべきだと強調する。「私は女性たちに、自分が本当に治療したがっているのは不安だということに気付きなさいと伝える。それにはもっと良い方法があるということも」