2016年3月7日月曜日

乳がん、広がる一括治療…診療科の垣根越えチーム

2016年3月6日

 全国の医療機関で、乳がんの診断、治療から乳房再建までを一括して行う「ブレストセンター」を設置する動きが広がってきた。診療科の垣根を越えて医師・看護師がチームを組み、治療効果を上げるとともに患者の負担も軽くするのが狙いだ。乳がん患者の増加で、2013年に乳房再建の保険適用の範囲が広がったことが背景にあるという。

手術、同じ日に

 大阪府四條畷市の女性(50)は14年夏ごろ、近くの病院で乳がんの診断を受け、右乳房の全摘を勧められた。「ショックだった。女性として終わった感じがした」

 しかし、同年11月にブレストセンターを新設した関西医大滝井病院(大阪府守口市)を紹介され、乳腺外科で乳房を摘出し、続いて形成外科で自らの腹の脂肪を血管ごと胸に移植する自家再建術を受けた。手術は16時間に及んだが、女性は「手術後、ほとんど元のままの胸を見た時は、本当にうれしかった」と話す。

 同病院は両科のほか、専門知識を持つ看護師らが協力。再建後は形が固定するまで専門の下着が必要で、「下着外来」も設けて患者に合った下着も作っている。

 センター設置後、2月末までに261件の乳がん手術を実施、このうち約6割が再建術を伴う。以前は診療科の縦割りで、摘出と再建の手術を同じ日にするのは難しかった。形成外科の田中義人医師は「きれいな乳房再建には摘出段階から連携が必要だ」という。

全国10か所以上

 日本の先駆けは、05年に開設した聖路加国際病院(東京都)。現在、昭和大病院のブレストセンター長で、日本乳癌がん学会理事長の中村清吾氏が初代センター長を務めた。1990年代後半、米国で複数の専門医が一緒に乳がん患者を診療する様子を見て、センターを計画。現在は、8診療科約30人の医師がチームを組み、年間約900件の手術を行う。患者らの心をケアする精神腫瘍科もある。

 読売新聞の調べでは、北海道や東京都、神奈川県、大阪府、九州などの医療機関に少なくとも10か所以上のブレストセンターが設置されている。14年4月にセンターを開設した、札幌医大病院(札幌市)は15年の乳がんの手術数は128件で、06年の66件と比べほぼ倍増した。

 中村理事長は「昔に比べ、今は様々な治療、再建法ができた。患者個々に適した医療がどこで効率的に受けられるか、学会として患者目線で分かるようにしていきたい」と話す。