2016年4月14日木曜日

10年相対生存率(2016年3月20日号)
5年後に再発するがん、しないがん
全がん協10年相対生存率が公表される
2016/4/14 日経メディカル

 国立がん研究センターの研究開発費に基づく研究班「わが国におけるがん登録の整備に関する研究(班長:東尚弘氏)は、がん医療の中核的医療機関で組織する「全国がん(成人病)センター協議会」(会長:堀田知光氏、以下「全がん協」)の協力を得て、加盟施設における“部位別10年相対生存率”を初めて集計し、公開した(http://www.zengankyo.ncc.go.jp/etc/)。部位別の10年相対生存率は各がんの生物学的特性を反映しており、治療選択や患者への生活指導にも影響しそうだ。

「乳がんはいつまでも再発するがん」

10年生存率の違いに加え、5年生存率と10年生存率の違いにもそのがんの特徴が示されると同研究班は指摘する。例えば胃がん、大腸がんなどの消化器がんでは5年を超えると生存率は大きく低下しない。つまり、巷間いわれているように5年を治癒の目安とすることができるがんだ。しかし乳がんでは5年を経過しても再発し、死亡する患者が多い。研究班の三上春夫氏(千葉県がんセンター・がん予防センター疫学研究部)は、乳がんを「いつまでも再発するがん」と呼ぶ。

待たれる乳がんの休眠機序の解明

 乳がんの治療がほかの消化器がんに比べ長期にわたることは臨床家の間ではよく知られている。2012年には抗がん薬のタモキシフェンの補助療法を5年から10年に延長することで乳がん死のリスクを有意に低下させることができるとしたランダム化比較試験「ATLAS(Adjuvant Tamoxifen:Longer Against Shorter)」の結果が報告され、注目された。

このように再発リスクが長期にわたって続くメカニズムとして、乳がん細胞が骨髄中に入り、そこで長期間の休眠に入るというモデルが提唱されている。休眠中の乳がん細胞が何らかのシグナルを受けて覚醒し、再発転移を起こすというものだ。こうした休眠と覚醒のメカニズムを知ることは乳がん治療に大きな革新となると考えられる。

2014年には国立がん研究センター研究所分子細胞治療研究分野主任分野長の落谷孝広氏らが、乳がんの休眠にエクソソームと特定のマイクロRNAが関与していることを世界に先駆け報告している。

 がん治療の成績には初回治療が占めるウエートは高い。堀田氏は、「今回公表されたデータは10年前の医療のデータを示している。当然、現在の治療成績が高い。この点を、数値を見る市民の皆さんにも強調してほしい」と10年生存率の公開を機に聞いた記者会見で報道陣に注文を付けた。2002年は固形がん治療に分子標的治療薬はなく、確立した薬剤のレジメンがなかった固形がんも多かった。