2016年4月15日金曜日

朝型か夜型か……鍵を握るのは「絶食時間」

2016年4月5日

体内時計が食事時刻を覚えている

 さて、毎日決まった時刻にしか餌をもらえない環境でマウスを飼育すると、そのマウスは餌がもらえる時刻の数時間前から行動し始めるようになります。この行動は毎日正確に行われ、体内時計によって餌の時刻を察知する能力があるようです。この現象は古くから知られており、いわゆる「腹時計」が本当に存在しているのではと考えられてきました。また、このような環境で飼育したマウスの体内時計は、食事の時刻に合わせて昼と夜のリズムが変化します。自然環境に生きるマウスは夜行性で夜、餌を取りますが、明るい時間にだけ餌をもらう環境が続くと、明るくても行動するようになります。また、体温リズムやホルモンリズムも変化します。つまり、体内時計は食事時刻の変化に合わせて、時刻調節を行うのです。それは生きるうえで重要な餌の確保のためであり、体内に入ってくるだろう食事の消化・吸収・代謝の準備のためでもあります。

朝食は体内時計を早め、遅い夕食は時計を遅らせる

 上述の実験で、1日1回の食事を朝食(マウスが活動を開始する時)、または夕食(マウスが寝始める直前)に固定し、体内時計の時刻を比べてみました。すると毎日、朝食だけ食べているマウスの体内時計は、自然な状態よりも少し早い時刻に変化しました。一方、夕食だけを食べているマウスの体内時計は、約3時間と大きく遅れました。朝食には体内時計を前進させる効果、夕食には後退させる効果があることが分かります。

しかしこの結果を、私たち人間にそのまま当てはめることはできません。通常、私たちは1日3食が一般的です。その場合は、朝食の前進効果と、夕食の後退効果が差し引きされて、体内時計の時刻は大きく変化しません。またそもそも体内時計への刺激は、1日1食よりも1日3食だと弱くなります。さらに昼食だけを食べるマウスでの1日1食実験では、朝食、夕食と異なり体内時計は大きく変化しないことが分かっています。

 では1日3食のパターンを崩した例で考えてみましょう。実はヒトの食事と体内時計の関連を調べた実験はまだほとんどなく、ほぼすべてはマウスでの実験です。以下はマウスでの研究成果を基にした科学的な推察と考えてください。

 最近は若い人だけでなく、年配の人にも多いといわれる朝食抜き生活(1日2食)ではどうでしょうか。昼食と夕食の組み合わせは、体内時計の時刻後退効果しか見込めません。ここで思い出してほしいのは、連載第1回で紹介したように、ヒトの体内時計は24時間よりも少し長く、毎日少し早めることで24時間に調節しているということです。つまり、ただでさえ遅れがちな体内時計を、朝食を抜くことでさらに遅らせてしまうことになります。もちろん食事以外に光などでも調節されるので、どんどん遅れていくわけではありません。しかし、体内時計の夜型化の大きな要因となるのは事実でしょう。

長い絶食後の食事だけが体内時計を調節できる

 では1日3食生活でも、夕食が極端に遅い場合を考えてみましょう。朝食が7時、昼食が12時、夕食が22時の場合です。夕食は19時くらいが一般的だと思いますが、残業後に帰宅してからご飯を食べる場合、夕食が22時ということもあり得ると思います。私たちはマウスでこのような状況を再現し、体内時計の変化を調べてみました(実際には他にもいくつかの食生活パターンを試してみた中の1例です)。

 その結果分かったことは、1日2食または3食の生活スタイルでは、「一番長い絶食後の食事に体内時計調節効果が表れる」ということです。つまり普段は図のように朝食が一番直前の絶食時間が長い(夕食から12時間たっている)のですが、22時に夕食を食べるパターンだと、夕食が一番長く(夕食は昼食から10時間後、朝食は夕食から9時間後)なります。つまり通常は、体内時計調節効果を朝食がもっとも強く持っているのですが、夕食が遅すぎると朝食の体内時計調節効果が弱まってしまうということです。となると、「朝食で体内時計をリセットできなくなっても、夕食でリセットできるなら問題ないじゃないか」と思う人もいるでしょうね。そうではありません。前述の通り、元々、夕食は体内時計を遅らせてしまう方向に働く可能性がありますので、やはり朝食でリセットする方が望ましいと考えられています。

 また「遅い夕食の次の日、ただでさえ朝食を抜きたいのに、無理して食べても体内時計調節効果が弱いなら意味ないな」と思った人もいるかもしれません。大丈夫です、ベストではないですが簡単な解決策はあります。それは、昼食と遅い夕食の間に、間食を取ることです。これで絶食状態は無くなりますので、朝食が一番長い絶食後の食事になりますね。

 では、なぜ長い絶食後の食事のみが体内時計の調節に効果的なのか? そこには血糖調節ホルモンである「インスリン」が深く関わっています。

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 体内時計と食の関係を探る研究は「時間栄養学」と呼ばれ、最近世界中で盛んに取り組まれています。