2014年12月4日木曜日

全国がん登録

更新日:2014年11月14日 [ 更新履歴 ]    掲載日:2014年11月14日

1.全国がん登録とは何ですか

全国がん登録」とは、日本でがんと診断されたすべての人のデータを、国で1つにまとめて集計・分析・管理する新しい仕組みです。この制度は2016年1月から始まります。

「全国がん登録」制度がスタートすると、居住地域にかかわらず全国どこの医療機関で診断を受けても、がんと診断された人のデータは都道府県に設置された「がん登録室」を通じて集められ、国のデータベースで一元管理されるようになります(図1)。

図1 新しくはじまる「全国がん登録」の仕組み


なぜ、国はこのような仕組みをつくったのでしょうか。それには次のような理由があります。

現在、がんと診断された人のデータを余すことなく収集する仕組みには「地域がん登録」制度があります。これは都道府県がそれぞれの自治体内で診断されたがんのデータを集めたものです。

そして、都道府県にがんの情報を提供する仕組みが「院内がん登録」制度と呼ばれるもので、医療機関ごとにがんのデータを収集しています。さらに、国(国立がん研究センター)は都道府県や医療機関からデータを提供してもらい、わが国におけるがんの状況を把握しています(図2)。

図2 現在のがん登録の仕組み


しかし、都道府県ごとにデータを収集していると、住んでいる都道府県以外の医療機関で診断・治療を受けた人や、がんにかかってから他県に移動した人などのデータが重複する可能性があり、正しい情報が把握できないことが指摘されていました。また、すべての医療機関が地域がん登録に協力しているわけではないので、すべてのがん患者のデータを収集することもできていません。

つまり、今の仕組みではより正確ながんのデータを集めることが難しく、わが国の大きな課題となっていました。そこで、国は法律を整備し「全国がん登録」制度と呼ばれる新しい仕組みをつくったのです。

「院内がん登録」についてはこちらを、
「地域がん登録」はこちらをご参照ください。

2.がん登録はなぜ必要ですか

「日本人の2~3人に1人は、がんになります」
「最近の肺がん患者の傾向としては、女性と非喫煙者が増えています」

日々の暮らしの中でよく耳にするこれらの情報は、「毎年どのくらいの人が新たにがんと診断されているのか」、すなわちがんの「罹患数」を把握しなければわかりません。その数字を正しく知る唯一の方法が「がん登録」制度です。

罹患数から得られる上記のような情報は、がんの実態を示しているので、国のがん対策や都道府県の地域医療計画にも生かされます。例えば、全国に何ヵ所のがん診療連携拠点病院を整備すればよいのか、この県に肺がんを治療できる医師は何人くらい必要か、どの年代の人にどのようながん検診を実施するのが効果的か、といった計画や対策を立てるときに役立ちます。

がん登録では、罹患数のほかに進行度や生存率など、がんにまつわるさまざまな統計情報も得ることができます。進行度はがんが見つかったときの進み具合を示すものですが、全体の傾向をみることで国や都道府県でがん検診が効果的に実施されているかどうかを知る手がかりにもなります。また、生存率はがんと診断された人がその後どのくらいの割合で生存しているかということを示した数字ですが、治りやすさの目安にもなるため、医師と患者さんが治療方針を考える上で重要な情報の1つになります。

このように、がん登録のデータによって得られた統計情報はいろいろな場面で役立っており、私たちがよりよいがん医療を受けられる体制をつくるためには、なくてはならない制度なのです。そして、より正しいデータを収集するには、がんに関する情報を提供していただくがん患者さんをはじめ、一人一人の市民の理解と協力が何よりも大切になってきます。

3.がん登録の手続きは?

新しい制度では「がん登録等の推進に関する法律」に基づき、全国の医療機関はがんと診断された人のデータを都道府県知事に届け出ることが義務化されます。そのため、患者さんや家族によるがん登録の手続きは不要です。がんと診断された時点で、あなたのがんに関する情報(表1)は自動的に医療機関、都道府県を通じて、この事業を委託されている国立がん研究センターの中に設置されている「全国がん登録データベース」に登録されます。

がん登録を自動的に行うのは、正確な統計情報をとることを第一の目的としているからです。一人一人の患者さんや家族の意向を確認していると、わが国で診断されたすべてのがんのデータを収集できなくなり、統計情報も正しいものではなくなります。そこで「がん登録等の推進に関する法律」では、がん登録にあたって患者本人の同意を得なくてもよいとされており、「他人に個人情報を知られたくない」という理由でがん登録を拒否することはできません。

また、「自分のがん情報を知りたい」といった患者さんや家族の開示請求も認められていません。本来、診断結果や治療内容は医療機関に直接確認することであり、担当医の承諾を得ない下での開示は治療方針に悪影響を及ぼす可能性があるからです。この点をどうかご理解ください。
表1 届け出の対象となっている患者のがんに関する情報
(1) がんと診断された人の氏名、性別、生年月日、住所
(2) がんの診断を行った医療機関名
(3) がんの診断を受けた日
(4) がんの種類
(5) がんの進行度
(6) がんの発見の経緯
(7) がんの治療内容
(8) (死亡した場合は)死亡日
(9) その他

4.私たちの個人情報は守られますか

がん登録では、がんと診断された人の登録漏れをできるだけ防ぐために医療機関だけでなく保健所や市区町村などからも情報を収集します(図1)。その際、それらの情報が同じ人のものかどうかを判断する(名寄せ)ために氏名、生年月日、住所などの個人情報が必要になります。

また、治療後の経過を確認する際も個人情報に基づいて予後調査が行われます。さらに、個人情報を長期間保管することによって同じ人がほかのがん(多重がん)になったときの分析も可能になります。

本来、がん登録には患者さんの氏名や生年月日、住所などの個人情報は必要ありませんが、わが国には現在、がん登録に利用できる“国民番号”のようなものがないため、登録漏れの防止や追跡調査などに個人情報を利用せざるを得ない状況となっています。

そのため、これらの個人情報が漏えいし、貴重なデータを提供していただいた患者さんのプライバシーや権利が侵害されることのないよう「がん登録等の推進に関する法律」においても、個人情報の保護や管理、さらには罰則に対する規定が厳しく定められています。

一方、がんと診断された人のデータを「全国がん登録データベース」に登録した後、データの集計値を報告したり、がん登録のデータを使った調査や研究の成果を発表したりするときは匿名化されるので、個人が特定されるような形で公表されることはありません。

また、がん登録の業務に従事する職員は、個人情報の取り扱いやデータの処理方法について専門的な研修を受けた人(がん登録実務者)が担当しています。さらに、その実務者の中でも個人情報保護の観点から集められたデータにおいて名前などの個人情報を取り扱う職員は限定されています。どうかご安心ください。

5.集めたデータをどうするのですか

全国から収集したデータは国のデータベースにまとめられ、統計の専門家によって分析が行われます。第三者となる審議会がデータの利用や提供について定期的にチェックするため、集められたデータがそのまま放置されたり、国に都合が悪いからといって隠蔽(いんぺい)されたりするようなことは決してありません。分析によって得られた最新の統計情報は、国立がん研究センターがん対策情報センターのウェブサイト「がん情報サービス」(http://ganjoho.jp)で随時公開されますので、誰でも見たいときに閲覧することができます。

繰り返しになりますが、これらの統計情報は一般に公開されると同時に国や都道府県のがん対策をはじめ、がん検診や治療の体制づくり、がん研究などに役立てられます。そして、がんになる人を減らしたり、がんから治る人を増やしたり、あるいはがんになっても長生きして苦痛の少ない生活を過ごせる社会を実現する一助となります。

「がん」という手ごわい病気を克服できる社会を、みんなで力を合わせてつくっていくために「全国がん登録」へのご理解とご協力をよろしくお願いいたします。