2012年3月29日木曜日

化学療法で生理が止まってしまった後にLH-RHを使うかどうか 2

若年性、抗がん剤で閉経の可能性のホルモン強陽性タイプの治療について

こんにちは。
術前抗がん剤治療後、温存手術をし病理の結果、PgRが90%、Erが75%のホルモン強陽性でした。

主治医は抗がん剤により人工的に閉経しているので、タモキシフェン内服のみで良いとのことで現在はLH-RHアゴニスト製剤の注射はしていません。

ホルモン陽性で閉経前(抗がん剤で閉経したかどうかも分からない場合も)であれば通常LH-RHアゴニスト製剤(2年間注射)+タモキシフェン(5年間内服)をするのが標準治療と読み、不安に思っています。

私の様な場合、LH-RHアゴニスト製剤の注射の治療を追加して貰うべきでしょうか?

私の場合、乳がんを患うには少し若い年齢で、子供もおりませんが、ホルモン強陽性な為、子供を持つ事は泣く泣く諦めております。
|都道府県:東京都 |掲載日時:2012/03/06

Re:
化学療法後に、タモキシフェンに加えてLH-RHアゴニストを用いるかどうかというご質問ですが、結論から申し上げると、こちらが絶対というのはありません。

医学において、ある治療法の発展は、臨床試験、その中でも前向き比較試験というものを通じて行われます。患者さんをAという治療法、Bという治療法に無作為にグループわけして、どちらの患者さんのグループの治療成績がよかったか、という評価が行われるのです。

どちらが絶対というのがない、というのは、今のたま様のお悩みにお答えしうる、(化学療法+タモキシフェン)と(化学療法+タモキシフェン+LH-RHアゴニスト)を直接比較する臨床試験は今まで行われていないのです。

ただ、情報がないわけではありません。乳癌は世界的にも患者さんの多いご病気ですので、沢山の類似しながらも少しずつ異なる比較臨床試験が行われます。これら複数の臨床試験に参加された患者さんを、行われた治療法別に大まかなグループ分けをして、統合解析するような手法があって、メタアナリシスと呼びます。そのメタアナリシスによると、(化学療法+タモキシフェン)が行われた患者さんと、(化学療法+タモキシフェン+LH-RHアゴニスト)が行われた患者さんの治療成績(再発、乳癌による死亡)には差がありませんでした。ただし、それにタモキシフェンをしなかった患者さんを含めた解析、つまり、(化学療法+/-タモキシフェン)と、(化学療法+/-タモキシフェン+LH-RHアナログ)を比較した場合、LH-RHアナログを用いたほうがやや治療成績がよい、という結果でした。さらに年齢別にみてみると、40歳以下のグループでは、41歳以上のグループよりLH-RHアナログを加えることでの治療成績の改善が顕著である、という結果でした。これは、化学療法で完全に閉経してしまいやすい41歳以上であれば、(閉経状態を作る薬である)LH-RHアナログの意義は相対的に少ないのだろう、と言う風に理解されています。

ただし、繰り返しになりますが、化学療法+/-タモキシフェンとの比較ですので、タモキシフェンを使ってさえいれば、LH-RHアナログは不要、である可能性も含みます。

このような状況ですので、たま様のような状況での治療法は、施設間、主治医の考え方で分かれるところではあると思います。ちなみに、我々の施設では、上記のことから、40歳以下であれば、化学療法で月経が止まっていても、タモキシフェン+LH-RHアナログを使うことが多いです。また、41歳以上の方に関しては、化学療法で月経が止まっている方の場合は、月経が再開した場合に、LH-RHアナログを加える、という方針をとることが多いです。

ご年齢は書いてくださっていなかったので、何とも言えませんが、参考にしていただければと思います。また、月経が再開された場合には、主治医の先生に知らせることをお勧めします。

お子様に関してですが、やはり今後卵巣機能が回復するということが、条件にはなってきます。聞かれていると思いますが、タモキシフェンは自然流産、先天異常の原因になりうるとされていますので、タモキシフェン内服中は妊娠をさけていただく必要があります。
|都道府県:兵庫県 |掲載日時:2012/03/10

Re:
ご丁寧な回答を頂き、誠にありがとうございました。

私は現在35歳です。

主治医からは月経が来たら、注射は考えましょうと言われています。再発が一番の心配事ですので、次回の診察時に打診してみようと考えています。

現在放射線注射中で中々ネットをする余裕が無く、お返事が遅くなり申し訳ありません。
|都道府県:東京都 |掲載日時:2012/03/27

Re:
混乱させてしまうかもしれませんが、私は、プラクティスで、化学療法後月経が再開した患者についてLHRHAを上乗せするということが行われていることを憂慮しています。(たまさんは、「標準治療」とされているとおっしゃいましたが、どんな情報源からその情報を得ましたか?)

向原先生のおっしゃるように、化学療法後tamoxifen内服中の患者にLHRHAを追加することの意義を直接示したデータはありません。向原先生の引用されているECOGの試験は直接LHRHAの上乗せを検証していません。(化学療法vs 化学療法+LHRHA vs化学療法+LHRHA+tamoxifenの3群比較であって、現在の標準治療である化学療法+tamoxifenと化学療法+tamoxifen+LHRHが比較されているわけではないからです。これは臨床試験で検討中です)。

EBCTCGのメタアナリシスでも若年層でOvarian ablation (卵巣摘出)(≠LHRHAによるovarian suppression)後改善に寄与することが示唆されておりますが、これをLHRHAにおきかえて解釈することはできません。

前向き臨床試験のレトロスペクティブなデータでは、化学療法後の一時的閉経(4ヶ月とか半年)(≠恒久的無月経)が得られている患者は、そうでない患者に比べ予後が良いことが示唆されています。

以上より化学療法後に月経が再開した時にLHRHAの追加することは、実際どのくらいの期間実施してもよいかわからないですし、「推奨されない」のではないかと思います。100歩譲って、もしECOGの試験の結果を信じるのであれば、ECOGの試験どおりに、術後薬物療法計画時に最初から化学療法+LHRHA5年+tamoxifen5年と予定すべきと思います。

昨年11月にASCOのガイドラインでも、LHRHAによる卵巣機能抑制を、Ovarian Ablationと同等に扱うことに警鐘を鳴らしており、LHRHAは用いるべきでない、というスタンスです。

http://www.asco.org/ASCOv2/Practice+%26+Guidelines/Guidelines/
Clinical+Practice+Guidelines/American+Society+of+Clinical+Oncology+Endorsement+
of+the+Cancer+Care+Ontario+Practice+Guideline+on+Adjuvant+Ovarian+Ablation+in
+the+Treatment+of+Premenopausal+Women+with+Early+Stage+Invasive+Breast+Cancer
(※URLをすべてコピーしてブラウザのアドレス欄に入力し見てください。)

サブタイプの考え方が定着し、腫瘍径やリンパ節転移の状況など、古典的な予後因子が見過ごされています。術後薬物療法は、base-lineの再発リスク, 薬物療法による絶対的なリスク低減率(100人治療したときに何人が救われるのか)の大きさ、治療によるデメリットによって話し合われるべきで、ER, PGRが強陽性だからということはLHRHAの上乗せをする根拠として不十分だと思います。

医療者の側が、サブタイプにとらわれて、あるいは、エビデンスを十分吟味せずに、患者を「月経恐怖症」に陥るような発言をしていないか、という点がずっとずっと気になっています。
|都道府県:東京都 |掲載日時:2012/03/28