2012年5月9日水曜日

年齢とリュープリン

▼ホルモン治療について質問なのですが一ヶ月ほど前に右乳房温存手術をしました。 今 放射線治療中です。

 46歳、閉経前、pure type粘液がん 脈官侵襲なし リンパ侵襲なし、大きさ0.7cm、リンパ転移なし、グレード1、HER2 0 切除断端陰性、ホルモンレセプター強陽性でした。

 医師からは生理を止める注射2年とノルバデックス5年を薦められましたが 私はノルバデックスのみでもいいのではないかと思っています。 自分で決めるように言われたのですが飲み薬のみでもいいと思われますか? リスクはどの位違うのでしょうか?

 |都道府県:愛知県 |掲載日時:2009/05/05 23:55:48

▼わたくしはホルモン療法関連を専門としている医師です。 ゆいゆいさんの疑問は LHRHアナログ(生理をとめる注射。以下LHRHとします)2年+タモキシフェン(ノルバテックスなど)5年 と タモキシフェン5年で 副作用のことも考え、タモキシフェン5年だけでも十分なのでは?との疑問を持たれたのだとおもいます。 できるだけ根拠をもとに、この比較について書いてみます。 少々難しい話がまじりますが、おつきあいください。

 ゆいゆいさんの癌は、お書きになった特徴からは、比較的たちがよい、早い段階でみつかった癌で、まずはよかったですね。 先生からお聞きになったとおり、無治療でも再発する確率は10%くらいで低いというのは、妥当ではないかとおもいます。もっと少ないと考える先生もいると思います。 手術後のホルモン療法は、この再発確率をすこしでも0に近づけるためにおこないます。 ホルモン療法の副作用は軽くみられがちですが、患者さんによっては抗癌剤よりいやだというかたもいらっしゃいます。更年期障害が基本の症状ですが、患者会や、サバイバーさんとの話でも、決して気楽なものではないとお聞きします。このあたりは医療者と患者さんの感じ方に差があると思います。

もちろん個人差があり、全然平気というかたもいます。 たとえばタモキシフェンで再発をおさえる力は40-50%くらいの抑制率とお聞きになっているとおもいますが、これは手術後の10年間で、手術をうけた患者さんの10%の人が再発するところを、5%にへらすという意味ではありません。ある時点から次の1年間(ある瞬間にというのが本当ですが)に再発するひとを40-50%減らすという計算の手法でだされた数字です。この数値の理解のしかたはとても難しく、我々もなかなかうまく患者さんに伝えられない数値のデータです。

 ちなみに、閉経前の患者さんにお願いするホルモン療法は LHRH2年(これより長くも可)+タモキシフェン5年 か タモキシフェン5年 のどちらかです。これはゆいゆいさんのお書きになったとおりです。 LHRHだけというのもありますが、タモキシフェンが使えない理由のあるかたでは選んでもよいですよというのが一般的な扱いです。(この詳細は今回はなし) このような扱いや、数値は、これまでたくさんおこなわれてきた臨床試験という患者さんでの治療の結果をもとに、まとめて計算したり、それぞれの結果を参考にしてきめていきます。 ゆいゆいさんの疑問は、実は、これまではっきりとした結果が得られてない部分で、我々も困っている比較なのです。

 疑問に直接答える試験は、INT0142という海外(北米)でおこなわれた試験です。 腫瘍の大きさ3cm未満、ホルモン受容体陽性、リンパ節転移陰性のかたに、タモキシフェン5年のみとタモキシフェン5年+卵巣機能抑制(LHRHの注射か、卵巣をとる手術、放射線などで卵巣機能をとめる)の比較です。これがいちばんゆいゆいさんに似た状況の試験ですが、あまりうまくすすまず、予定の1/5の患者さんが試験登録したところで終了となってしまいました。参考値ですが、手術後5年時点での再発などしなかった患者さんの割合は、タモキシフェンのみで87%、タモキシフェン+卵巣機能抑制で89%でした。あまり差がないなという印象です。

もうひとつはZIPP試験というもので、これは なにもなし タモキシフェン2年 タモキシフェン2年+ゾラデックス(LHRHですね)2年 ゾラデックス2年 という4つのグループにわけた試験です。古い試験ですので、タモキシフェンが5年ではなく、2年のところがゆいゆいさんと条件があいません。でも15年間観察したデータが今年3月に論文ででました。 再発やあたらしく乳がんができた、なんらかの理由で亡くなったというすべてのことを悪い出来事として、それを防ぐ力がどれくらい違うかという点でみてみます。 タモキシフェンだけに比べて、LHRHを一緒に使用すると、5年後で約2%(INT0142の結果とにています)、15年後で約3%再発などするひとが減りました。15年後のデータを、別の書き方をすると、タモキシフェンをのんでもらう予定の患者さん36人にLHRHを注射すると、この36人のうち1人だけが注射をしたおかげで再発をまぬがれます。ゆいゆいさんの疑問の年齢ですが、たしかに40歳未満のかたは15年後で再発などする人が注射を加えることで5.5%減りますが、40歳以上のかたは1.7%しか減りませんでした。

長々と書きましたが、ご説明できるのは、 LHRH+タモキシフェンは、タモキシフェンだけより、再発などする患者さんを減らせるのはたしかです。ただ、その差がとても少なそうであることもたしかなようです。 われわれ医療者は、すこしでもわずかでも、再発するかたを減らしたいと思っています。 とくに、再発する危険の高い患者さんに対しては、このわずかな差が重要な場合があります。 再発の危険が比較的低いかたにとっては、決して軽んじられない副作用や費用の問題と、このわずかな差をみていただいて、どうしようかと決めていくことになります。 ゆいゆいさんが決められていく参考になればとおもい、書き出してみました。 長くなってすみません。

 |都道府県:東京都 |掲載日時:2009/05/10 22:32:55 |

▼さじさま、 専門家の詳しいお話を聞かせていただき大変うれしいです。 お時間をさいていただきありがとうございました。 やはりほとんど差がないようですね。 多くて3%。年齢を考えればもっと少ないようですね。 タモキシフェンのみにかけてみようかと思います。 でも 私には余り副作用がないかもしれませんし早期といっても癌ですから 一度試して見ることも考えています。 きつかったらやめてもいいと思ったら気が楽です。 ココロがすっきりしました。 今一度良く考えて見ます。 ほんとにありがとうございました。

 主治医には相談するつもりはありません。 自分で決めるしかないと思うのでもう一度良く考えて見ます。 ご心配いただきありがとうございました。

 |都道府県:愛知県 |掲載日時:2009/05/11 23:18:02 |