2012年5月9日水曜日

癌骨転移による骨病変治療薬デノスマブ(遺伝子組み換え)

ラジオNIKKEI<スズケンDIアワー> 平成24年4月26日放送内容より

デノスマブ(遺伝子組換え)の作用機序

  次に、デノスマブの骨転移に対する効果をみた代表的な臨床試験についてご紹介します。

  骨転移に対する従来の標準的治療薬であるゾレドロン酸を対照に、デノスマブの有効性と安全性をみるための、大規模な第Ⅲ相二重盲検比較試験が、3つ行われています。

  1つ目は、骨転移を有する乳癌2046例を対象とする試験で、これには、日本も参加しております。2つ目は、骨転移を有する前立腺癌1776例を対象とする試験、3つ目は、乳癌と前立腺癌を除く固形癌、および、多発性骨髄腫1901例を対象とする試験です。

  これら3つのいずれの試験においても、デノスマブ群では、デノスマブ120mgの4週に1回皮下投与、および、ゾレドロン酸のプラセボの4週に1回静脈内投与が行われ、ゾレドロン酸群では、ゾレドロン酸4mgの4週に1回静脈内投与、および、デノスマブのプラセボの4週に1回皮下投与が行われました。

  これらの試験は、骨転移を有する進行癌、または、多発性骨髄腫の患者さんにおける、骨関連合併症(skeletal-related events: SRE)の予防効果をみるもので、これらの臨床試験では、骨関連合併症(SRE)として、4つの事象が想定されていました。すなわち、骨転移に伴う病的骨折、骨転移に伴う脊髄圧迫、骨への放射線治療、骨への外科的手術の4つです。これらのいずれかの事象が起きたときが、SRE発現と定義されました。

  主要評価項目は、初回SRE発現までの期間で、これについて、ゾレドロン酸に対するデノスマブの非劣性をみることがこれらの試験の主目的でした。

  その結果、乳癌の試験、前立腺癌の試験、その他の癌および多発性骨髄腫の試験、のいずれにおいても、デノスマブはゾレドロン酸に対して非劣性であることが検証されました。

  さらに、乳癌の試験と、前立腺癌の試験では、ゾレドロン酸に対するデノスマブの優越性も示されました。SRE予防効果において、ゾレドロン酸よりもデノスマブの方が、有意に優れていたということになります。

  3つの試験とも、ハザード比は0.82から0.84であり、デノスマブ投与により、SREリスクを、ゾレドロン酸使用時よりもさらに、16~18%軽減できるということになります。

  3つの試験の統合解析も行われており、それによると、初回SRE発現までの期間の中央値は、ゾレドロン酸群の19.5ヶ月に対して、デノスマブ群が27.7ヶ月で、SRE発現までの期間を8.2ヶ月延長した、すなわち、SREが起きるのを8ヶ月遅らせられた、ということが示されています。

  SREは、患者さんのQOLを著しく低下させるものですので、これを予防し、その発現を遅らせられるというのは、患者さんのQOLを維持する上で、非常に重要なことだと思います。

  また、使用方法についても、ゾレドロン酸よりもデノスマブの方が簡便であると考えられています。

  ゾレドロン酸は、15分以上かけて点滴静注する必要があるのに対し、デノスマブは皮下注射で投与することができます。  腎機能障害がある場合、ゾレドロン酸では、腎機能に応じた用量調整が必要とされていますが、デノスマブでは、用量調節の必要がありません。

  デノスマブはゾレドロン酸と同様、ほとんどの患者さんに安全に投与できる薬剤ですが、ゾレドロン酸の有害事象として知られる顎骨壊死は、デノスマブにおいても同程度の症例に発生しており、これについては、細心の注意が必要です。顎骨壊死の発生頻度は1~2%であり、デノスマブの治療開始前には、歯科や口腔外科の診察を受けることが推奨されています。


 デノスマブは、NCCNのガイドライン、および、ASCOのガイドラインで癌骨転移患者への使用が推奨されています。日本においても、今年(2012年)1月に製造販売が承認され、4月に実地臨床での使用が可能となりました。

 本日ご紹介させていただいたように、デノスマブは、これまでの薬剤とは全く異なる特徴を有する分子標的治療薬であり、骨転移を抱える患者さんのQOL向上に欠かせない薬剤となると考えられます。


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