中日新聞 社説 2011年11月16日
抗がん剤「イレッサ」訴訟の控訴審判決は、国と輸入販売元の製薬会社の法的責任は認めなかった。だが、両者とも副作用など重要な情報を監視、患者に確実に伝えることを求められている。
「国、製薬会社に責任はないということ、歪(ゆが)んだ判決だ」
原告の一人、近沢昭雄さんの声が原告の遺族たちの気持ちを代弁している。
イレッサには間質性肺炎を発症する強い副作用がある。その注意喚起が医療機関に対し十分行われたかが主な争点になった。
一審の東京地裁は医師向け添付文書での危険性指摘が不十分だったと国と製薬会社の責任を認めた。東京高裁は一転、添付文書に欠陥はなかったと判断した。
だが、実際には原告は副作用について十分な説明を受けずに治療を受け亡くなっている。二〇〇二年に承認されたイレッサは当時、「夢の新薬」として患者の期待も高かった。錠剤で使いやすいこともあり希望する患者も多く、抗がん剤の専門医ではない医師が処方した例も指摘されている。
抗がん剤は強い副作用があることが多い。一方、患者は抗がん剤に望みを託して医療機関に来る。肝心なことは、負の情報も正しく患者に伝え、納得して治療を受けられる環境をつくることだ。法的責任はないとしても、薬事行政を監視・監督する厚生労働省と販売する製薬会社に、被害拡大防止に努める責務はあるはずだ。
東京地裁などの判決を受け厚労省は三月から、添付文書への監視・指導の強化や、医薬品行政を監視する第三者組織の設置などを検討している。従来の対応では不十分との認識があるからだろう。再発防止を徹底すべきだ。
厚労省は市販後の副作用情報の収集や医療機関への提供の迅速化、製薬会社は当初から十分に副作用情報を公表してきたか再点検してほしい。医療機関側も抗がん剤専門医を養成し、患者に十分な説明を行う体制を整えることが求められている。
厚労省は副作用被害者の救済制度に抗がん剤を含める検討を約束している。救済に役立つ制度を考えてもらいたい。
欧米で評価されている新薬でも国内承認が遅く使えない「ドラッグラグ」解消の狙いもあり、イレッサは世界に先駆け承認された。患者の選択肢を狭めないために解消努力は要る。そのためにも副作用の対策を抜かりなくしたい。