NCI Cancer Bulletin2011年9月20日号(Volume 8 / Number 18)
さらに個別化に向かう乳癌ホルモン療法
エストロゲン受容体陽性腫瘍を発症した閉経後女性の多くは、初期ステージの乳癌治療の後、その再発を予防または遅らせるためにアロマターゼ阻害薬やタモキシフェンなどの薬剤の使用を選択する。ところが、それぞれの患者にとって最善の治療法を選択することは困難である。その理由のひとつに、相反する科学的根拠があることがあげられる。
たとえば、ASCO(米国臨床腫瘍学会)などのガイドラインによると、全ての閉経後女性がアロマターゼ阻害薬を単独で、あるいはタモキシフェンの投与前または投与後のいずれかに使用するべきであると推奨しているが、それが最も有効な治療法であるとは示していない。
確実な勧告とするには、最終的に現在進行中の臨床試験の結果から判断することになるであろう。その結果が出るまでの間、医師は治療法の選択に際し、患者の病歴および各薬剤の副作用の可能性を考慮すべきであると、新しい研究は示唆している。
9月7日付Journal of the National Cancer Institute(JNCI)誌に掲載された研究によると、これらの薬剤に関する既知の情報がおおむね確認された。つまり、タモキシフェンと比較すると、アロマターゼ阻害薬を長期間使用した場合、心疾患発症率と骨折発現率は上昇するが、血栓発生率と子宮内膜癌発症率は低下した。
アロマターゼ阻害薬とタモキシフェンの使用は、しばしば術後補助内分泌療法といわれ、体内でのエストロゲン生成を阻害し、エストロゲンによる乳房腫瘍成長の促進を阻害することを目的とする。エストロゲンはもともと体内で分泌されるホルモンで、乳癌増殖の原因となりうる。
この新しい結果から、医師にとってその薬剤の乳癌再発予防効果以上に重要な選択基準があることが明確になったと、本研究の著者は述べた。
「これらの補助療法のリスクは比較的低いので、医師は副作用の考慮にそれほど多くの時間を費やしません」と試験責任医師であるプリンセス・マーガレット病院(カナダ・トロント)のDr. Eitan Amir氏は述べた。しかしこの2つの治療法に関連した明らかに重大な副作用が存在し、医師は治療を選択する前に、これら毒性のいずれかのリスクを持つ患者を特定できなければならないと指摘している。
“切り替えを恐れない”
これらの抗ホルモン療法を用いた7つの臨床試験から、研究者らは、あるタイプの治療法から他のものへと切り替えれば、各薬剤の生じうる副作用の蓄積を軽減できる可能性があり、多くの女性がより低い副作用で最大の有用性を得ることができる、と結論付けた。
「われわれはひとつの治療法が万人に適するというフリーサイズのような治療法が、すべての女性に効果的とは言えないと認識しています」と、付随論説「乳癌における補助内分泌療法―切り替えを恐れるな(Adjuvant Endocrine Therapy for Breast Cancer: Don’t Ditch the Switch)」の共著者であるピッツバーグ大学癌研究所のDr. Shannon Puhalla 氏は述べた。
「腫瘍医として、われわれは常に癌の再発を防ぐことを念頭に置いていますが、患者の死亡や病状悪化を引き起こす癌以外の原因に目を向けることが重要です」とPuhalla 氏は続けた。彼女らがその論説中に記したように、臨床医が各患者に最適の治療を選択する際に、参考となるこの分野のリスクモデルが必要である。
「現在の研究はホルモン療法の個別化に向けての第一歩です」と彼女はつけ加えた。
術後補助内分泌療法による重大な副作用はまれではあるが、心疾患歴など特定の身体状態にある患者ではより高い頻度で副作用が生じる可能性がある。
「今回の研究により、どちらの選択肢も患者にとって非常に優れていることが再確認されました」とNCI 癌研究センターのDr. Tito Fojo 氏は述べた。彼は今回の研究には関わっていない。「ゆえに毒性を考慮したうえで各患者に最適の薬剤を選択することが医師の責務となるのです」。
アロマターゼ阻害剤の謎
いくつかの臨床試験によれば、タモキシフェンよりもアロマターゼ阻害薬の方が癌の再発までの期間(無病生存期間または無再発生存期間)を延長する。しかしアロマターゼ阻害薬が全生存率を改善することを証明する試験は存在しない。
研究者らは、アロマターゼ阻害薬の蓄積毒性が乳癌以外の死亡原因となっているかもしれないという仮説を立てた。その仮説を検証するために、腫瘍増殖促進ホルモンを抑制している3万人以上の女性に適用された治療に関連する、6種類の有害事象リスクを評価した。
その分析結果によると、アロマターゼ阻害薬は一次治療に用いられた場合には無病生存期間を改善するが、その蓄積毒性が、全生存率に対する有益性が認められない理由であることが示唆された。
Amir氏はその結果を予備的知見ととらえるべきであり、検証を要すると強調した。確証が得られるまでの間は可能性のある副作用リスクについての情報を明確に患者に説明しなければならないと述べた。
「ただ乳癌予防に対する評価だけでなく、薬剤の副作用の特徴を含めて、もっと全体的な評価として患者に提供することが重要です」とAmir氏はつけ加えた。
——Edward R. Winstead
【上段引用部分訳】腫瘍医として、常に癌の再発予防を重視しているが、癌以外の病状悪化や死亡の原因に目を向けることが重要です—Dr. Shannon Puhalla
【中段引用部分訳】いずれの選択肢も非常に優れた治療法であると、またひとつ証明された—Dr. Tito Fojo