2011年10月31日月曜日

メモ: 乳癌に対する放射線治療と手術範囲の違いとが、局所再発と15年生存率に及ぼす影響

乳癌に対する放射線治療と手術範囲の違いとが、局所再発と15年生存率に及ぼす影響

Effects of radiotherapy and of differences in the extent of surgery for early breast cancer on local recurrence and 15-year survival: an overview of the randomised trials

Early Breast Cancer Trialists' Collaborative Group, Clarke M, et al.
Lancet 366:2087-2106, 2005

背景

早期乳癌においては局所治療の違いで局所の再発率が大きく異なり、結果として長期の原病死にも影響することがある。そのような関係を検討するために1995年までに開始されたランダム化比較試験の患者個々のデータを用いてメタ分析を行った。

方法

78のランダム化比較試験の対象となった42,000人(内訳 照射 vs 非照射,23,500人、切除手術の大小, 9,300人、拡大手術 vs 照射, 9,300人)の患者情報を元に分析した。24通りの局所治療法が行われた。局所再発と原病死との関連を分かりやすくするために5年局所再発率が10%を超えない(17,000人)超える(25,000人)で2群に分けて検討した。

結果

局所再発のおよそ3/4は最初の5年間に発生した。5年目の局所再発率が10%未満の臨床試験では15年原病生存率にほとんど差がみられなかった。これらの試験には腋窩郭清 vs 腋窩照射、乳房切除 vs 乳房温存術+照射、腋窩リンパ節転移陰性例への術後照射が含まれる。しかし5年目の局所再発率が10%を超える25,000人では積極的治療群の平均が7%であったのに対して対照群では26%と19%の差がみられ、それぞれの15年原病死亡率は44.6%および49.5%でその差は5.0%であった。

後者の25,000人には乳房温存術後の照射(多くは乳房照射単独)の効果をみる試験の7,300人が含まれ、5年局所再発率(多くは腋窩郭清後、リンパ節転移陰性群であるので主に温存乳房内における再発)は照射群7%、非照射群26%(絶対差19%)であり、15年原病死亡率はそれぞれ30.5%および35.9%(絶対差5.4%、有意差(2p=0.0002、全死亡率でみても差は5.3%で、2p=0.005で有意差あり)で差がみられた。

さらに後者には乳切後で腋窩郭清し、リンパ節転移陽性で胸壁および領域リンパ節への照射の効果をみた8,500人も含まれており、同様の照射効果がみられた。すなわち5年局所(主に胸壁および所属リンパ節)再発率は照射群で6%、非照射群で23%(絶対差17%)と大きく、15年原病死亡率も54.7%と60.1%(絶対差5.4%)で有意差(2p=0.0002)がみられた。また全死亡率でみても差は4.4%で有意差(2p=0.0009)がみられた。

このような局所再発に対する照射の効果は年齢や腫瘍因子、全身療法の併用に関係なく、一定の割合でみられ、対照群のリスクが大きいほど絶対差が大きくなった。

照射による有害事象をみるために照射の併用/非併用をみた臨床試験と照射/拡大手術の臨床試験を合わせて検討した。少なくとも一部の古い試験では対側乳癌の発生率が1.18倍(2p=0.002)となり、非乳癌死亡率が1.12倍(2p=0.001)と高くなった。両者は最初の5年間はわずかな上昇であるが、15年を過ぎても持続した。後者の原因は主に心疾患(1.27倍, 2p=0.0001)と肺癌(1.78倍, 2p=0.0004)であった。

結論

これらの臨床試験では乳房温存術後や乳房切除後の局所再発を避ければ15年目の原病死亡率を減少させていた。十分に局所再発を押さえる局所治療をすれば、他に死亡原因がないと仮定すれば、4例の局所再発例を防ぐことができればうち1例は15年間にわたって乳癌による死亡を1例減らすことができる。(4対1の絶対効果)

コメント

EBCTCGが1985年より5年ごとにレビューしている乳癌に対する照射の効果をみたメタ分析である。前回は2000年に報告されており、今回は1995年までに試験が開始され、2000年までに報告されているものをまとめたものである。

前回の報告では原病生存率に対する乳切後の照射(P<|MRT)の効果は確かにみられたが、乳房温存術後の照射ではギリギリ確認された程度であった。さらにすべての死亡を考慮するとどちらの照射においてもその効果は明らかでなかった。局所制御の改善も心疾患を中心とする有害事象によりoffsetされたためと思われた。

しかし今回の報告ではより有害事象に留意した近代的な照射方法を用いた試験を含み、かつ長期間の追跡によりハイリスク群にはPMRTだけでなく、乳房温存術後の照射でも局所再発の減少→原病死の減少のみならず、全死亡率の減少ももたらすことが確認できた。その意味でも大変、重要な論文のひとつと考える。この論文の中で説明されるweftableとwebfigureはhttp://www.ctsu.ox.ac.uk/~ebctcg/でみることができ、本文とともにダウンロードできる。またPowerPointで作成されたプレゼンテーション用スライドも取得できるので必見である。

今回のメタ分析では照射線量や照射野の検討などはなされていないが、PMRTについては最近、それらについてより詳細に検討したメタ分析*があった。Gebskiらによると乳切後、適切な照射野(胸壁+腋窩+鎖骨上窩±胸骨傍リンパ節)に適切な線量(40-60Gy相当)を照射したときだけ5年全生存率でみて2.9%の絶対差がみられ、有意差が確認できたとしている。

このように乳癌の術後照射はNIHコンセンサス コンファランスでも提唱されているように乳房温存術後は必ず、また乳切後はハイリスク例に検討されねばならない

* Gebski V, Lagleva M, et al: Survival effects of postmastectomy adjuvant radiation therapy using biologically equivalent doses: a clinical perspective. J Natl Cancer Inst 98:26-38, 2006