2011年10月31日月曜日

メモ: 局所治療の意義

(2006年6月刊行)

薬物療法は乳癌患者の生存率を改善させており、検診の普及とともに1990年以降先進国では乳癌死亡率は低下傾向にあります。より有効な薬物療法が確立されつつある現在、外科手術の重要性は低下しつつあるように思われますが、本当にそうでしょうか。

外科手術を含めた局所治療の意義は、拡大手術vs.縮小手術、放射線治療ありvs.なしを検討した無作為化比較試験の結果に求めることができます。このような臨床試験は古くから行われてきましたが、局所再発とその後の生存率との関連性をみるためには長期間の経過観察が必要となります。これら臨床試験のmeta-analysisにより、局所再発の全生存率に及ぼす影響がEBCTCGにより報告されました。まとめると表2のような興味ある結果となりました。これらの結果から次のことがいえます。
  1. 局所再発予防に放射線治療が重要である。
  2. 外科手術法にかかわらず術後5年以内に局所再発がなければ局所治療は成功といえる。
  3. 局所治療がおろそかになると全身治療の有無によらず生存率が悪化する(図2)。

表2 乳癌局所治療における無作為化比較試験の結果(EBCTCGのmeta-analysisによる)
1)局所再発※1の4分の3は術後5年以内に起こる。 
2)局所再発率は、
a) 放射線治療により約70%低下し、年齢、腫瘍グレード、腫瘍径、ホルモンレセプターによらない。
b) 放射線治療が併用された場合、乳房温存術後5年で7~11%である(リンパ節転移陰性~陽性患者)。
c) 拡大手術vs.縮小手術において放射線治療併用下では有意差はないが、放射線治療を併用しない場合に有意差がある。 
3)治療群間で術後5年局所再発率の差が10%未満(平均0.3%)では、術後15年の乳癌死亡率に有意差はない。
この結果があてはまる臨床試験の内訳:「拡大手術vs.縮小手術(ともに放射線治療あり)」または「拡大手術vs.縮小手術+放射線治療」 
4)治療群間で術後5年局所再発率の差が10%以上(平均18.7%)では、術後15年の乳癌死亡率に有意差があり(図2)、局所再発4例に乳癌死亡1例の比率である。これは全身治療の有無によらない。 
この結果があてはまる臨床試験の内訳:「同じ手術法で放射線治療ありvs.なし」または「拡大手術vs.縮小手術(ともに放射線治療なし)」 
※1:ここでいう局所再発はすべて所属リンパ節再発も含む。 ※2:本邦報告例に比べ高い。

図2 治療群間の局所再発率の差が10%以上であった臨床試験における局所再発率(左)と乳癌死亡率(右) 文献2)より引用