2011年8月9日火曜日

DPC (診断群分類包括評価)

◆岐阜の病院〈12〉 木沢記念病院 美濃加茂市
(2010年4月11日) 【中日新聞】【朝刊】【岐阜】
質保ちつつ治療最短に

診療情報管理課で職員と患者データを分析する北島院長代行(右)=美濃加茂市古井町で
「こんなにDPCの効果が上がっているのか」。3月中旬、患者データなどの分析に当たる病院1階の診療情報管理課で、北島康雄院長代行は、一昨年と昨年のそれぞれ12月から3カ月間の鼠径(そけい)ヘルニアの入院患者のデータを見比べ、目を見張った。

DPCは507の急性期疾患に対する医療費の定額支払制度で、正式名称は「診断群分類別包括評価」。医療行為が多いほど診療報酬が増える従来の出来高払いと違い、厚生労働省が対象疾患の診断別で報酬点数を算出。入院が長引くと報酬が低く加算されるため、医師が最短の治療を行うようになり、無駄な医療行為が減るとされる。

同省によると、2003年に全国82の大学病院などで始まり、1日現在、県内22病院を含む1334の病院が実施。7対1か10対1の看護態勢をもつ比較的大規模な病院が大半で、木沢記念病院では一昨年7月に導入した。

鼠径ヘルニアは、足の付け根の皮膚下に腸が出てくるいわゆる「脱腸」で、治療には手術を伴う。北島院長代行が見たデータでは一昨年と昨年を比較し、入院患者の平均在院日数は、8.7日から4.4日へ短縮。平均入院費用も10万円減の22万円だった。

「患者の支払額を減らし、ベッドの回転率も高まったことで、多くの人を治療できた」と北島院長代行は胸を張る。同時期の虫垂炎のデータでも平均在院日数、平均入院費用ともに減った。

DPC導入に当たっては「今までも無駄な治療はしていない」「患者にとって最良の治療を考えるのが第一」と現場の医師から反発もあった。北島院長代行は「治療方法は変えなくていい。治療計画を工夫し、必要な治療が終わり次第、患者の理解も得て退院させてほしい」と説得してきた。

一方、治療の短期化は、単位時間あたりの医療行為の密度が上がり、医師や看護師の負担増にもつながる。同病院では、外科の医師を一昨年の6人から昨年は11人に増やすなど、病院スタッフの増員がDPC運用を支えた面もあるという。北島院長代行は「書類作成の補助職員を付けるなど、スタッフの待遇改善も必要。治療の質を保ちながら、患者にも病院にも有益な医療を図りたい」と話している。 (安藤恭子)

患者本位の医療を

山田實紘院長の話 放射線治療機器「トモセラピー」や320列CT(コンピューター断層撮影)を他に先駆けて導入するなど、地域がん診療連携拠点病院として高度な医療を追求している。DPCが進めば、日本の医療費は抑制され、多くの患者を安く治療できる。公益性の高い医療を担う社会医療法人として、患者本位の医療で地域貢献を果たしたい。

木沢記念病院 ▽創設 1913年。診療所「回生院」として開設され、木澤病院に改称を経て現病院。2008年に全国3番目の社会医療法人に認定▽病床数 452床▽看護態勢 7対1▽循環器科、消化器科、外科、脳神経外科、産婦人科、皮膚科、小児科、放射線治療科など25診療部科

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◆診断群分類包括評価(しんだんぐんぶんるいほうかつひょうか)は、医療費の定額支払い制度に使われる評価方法。DPC(Diagnosis Procedure Combination;診断群分類)に基づいて評価される。

▽医療費の定額支払い制度

医療費の定額支払い制度は、患者が何の病気であったか(診断群分類)によって診療報酬が決まる制度である。これまでの出来高払い制度が、治療にどれだけの費用が掛かったかで報酬が決まっていたのと対照的な制度であり、様々な利益が期待されている。

第一に患者への利益として、無駄な医療の削減が期待されている。これまでの出来高払いでは行った医療行為が多ければ多いほど医療報酬が増えるため、回復への最短治療を行った医療者へは支払いが減り、回復を長引かせた医療者への支払いが増えると言う矛盾があった。この制度では患者と医療者の利害が一致しておらず、利害の溝を埋める事は医療者の人格と能力に全て任せられていた。一方 医療費の定額支払い制度では、まず最初から診断結果に対する診療報酬が決められていて、実際に掛かった医療費は後から経費として差し引かれる。そのため、回復への最短治療を行った医療者においては、診療報酬から治療に掛かった費用を差し引いた額だけ利益が発生する。逆に回復を長引かせた医療者においては、治療に掛かった費用が診療報酬の上限額を超えてしまい、その額だけ損失が発生する。このような形で患者と医療者の利害が一致し、無駄な医療が行われなくなると同時に、最適な医療を行う能力が医療者に求められる仕組みとなる事が期待されている。

第二に医療者への利益として、従来の診療では採算割れの傾向が強かった急性期病院は経営的安定が確保できるほか、患者の属性・病態や診療行為ごとの医療費情報が標準化されるため、経営的・技術的側面から医療の質を評価・比較可能であると注目されている。

第三に行政への利益として、医療サービスが標準化する結果、医療費抑制が実現されることも期待されている。

考えられる問題点は、行う医療行為が少なければ少ないほど利益になるので、最小限の医療が治療計画の余裕を損なう可能性がある。医療者の裁量に自由が無くなることは、治療成果や生存率の低下につながりかねない。また、医療訴訟が増加するなどして結果として、行政、医療者、患者たる国民の三者とも不利益を被る恐れがある。